航空機のHIRFのモデリング

E3 (electromagnetic environmental effects)[1] は電子機器の誤動作や故障の原因になります。高強度放射電界HIRF(High Intensity Radiated Fields)[2] はそのひとつです。TV局、ラジオ局、レーダや衛星通信システムが発する電磁波がHIRFとなり、航空機の電子機器の安全を損なうおそれがあります。航空機が受ける影響を、CST MW STUDIO(CST MWS)でシミュレーションすることができます:表面電流と電磁界分布を計算し、シールドした構造への結合を予測することができます。

航空機のバーチャルモデルと物理モデルを図1に示します。バーチャルモデルには機体のほか内装部品とケーブルハーネスのモデルも含まれます。このモデルは空間内にあり、平面波にさらされるものとします[2]。

図1:航空機のバーチャルモデル(a)と物理モデル(b)
図1:航空機のバーチャルモデル(a)と物理モデル(b)

HIRFの周波数スペクトルは次の3つの帯域に分けられます:(1)低帯域(LF:10 kHz ? 50 MHz)、(2)中帯域(MF:30 MHz ? 400 MHz)、(3)高帯域(HF:1000 MHz ? 18/40 GHz)[4]。航空機の内外に現れる電磁界は、帯域によりそれぞれ異なります。低帯域では航空機はアンテナのようになり、電磁界は機体にそれほど浸透しません。しかし高帯域では強い浸透が見られます(図2(b)参照)。中帯域では、アンテナのような特性と浸透の両方が重なってみられます(図2(a)参照)。低帯域と中帯域では、外部電磁界に誘起された電流が機体表面を流れます。この誘導電流はケーブルハーネスと結合し、さらには電子機器に影響を与える可能性があります。高帯域において機体に浸透した電磁波が内部で反射し建設的干渉を起こした結果、外部電磁界を超える可能性すらあります。その場合は、この高強度電磁界が電子機器に直接影響を与えるかもしれません。

ケーブルハーネスへの電磁界結合は、CST CABLE STUDIOを使用してシミュレーションすることができます。詳細は[3]を参照してください。

図2:磁界強度分布(a)70 MHz と1000 MHz(b)
図2:磁界強度分布(a)70 MHz と1000 MHz(b)

HIRFテストの目的のひとつに、伝達関数(TF)の推定があります。電磁環境が航空機に与える潜在的影響を、伝達関数によって推定できます。伝達関数は、測定結果から導き出すことができますが、電磁界シミュレーションから数値的に計算することも可能です。図3は、機体表面の点STP1において、機体表面に対して垂直な電界Enを求めた結果を示します。

1V/mの平面波励起について、伝達関数(単位:dB(V/m))は次式で表されます:

TF = 20 log(En(STP1)/1 V/m)

HIRFの潜在的影響Ethreatの推定値は次式で表されます:

THREAT = TF + Ethreat

図1の航空機モデルによるフルスケールシミュレーションを、6.5 GHzを上限とする広帯域で行いました。機体の全長と翼幅はどちらも14mを超え、これは最高周波数において300波長を超える大きさとなります。CST MWSのトランジェントソルバーと、MPIによる並列処理機能を使用した結果、メッシュセル数105億(六面体)、エネルギー減衰レベル-40dB、ノード数131の計算を、19.5時間で完了することができました。なお、これがシミュレーション可能な上限サイズではありません。この2倍以上の電気的サイズの問題 ? メッシュセル数が1000億を超える問題も数値計算可能です。本事例でいえば、メッシュセル数1000億は14 GHz超の周波数を意味し、HIRFテストで要求される周波数の最高値18 GHzに近い値となります[5]。

図3:機体表面に垂直な電界
図3:機体表面に垂直な電界

参考文献

[1] https://acc.dau.mil/CommunityBrowser.aspx?id=21848

[2] M. Kunze, et al., "Solving Large Multi-Scale Problems in CST STUDIO SUITE — An Aircraft Application," ICEAA, pp. 110-113, Oct. 2011.

[3] D. Johns and P. DeRoy, “Simulating Crosstalk and EMI in Cables (pdf),” Microwave Journal, Cables and Connectors Supplement, vol. 53, no. 3 sup

[4] M. Lindback, “Optimisation of aircraft transfer function measurements,” M.Sc. Thesis, Lund University, in coop. with Airbus France, 2004.

[5] SAE ARP5583 / EUROCAE ED 107, “Guide to Certification of Aircraft in a High Intensity Radiated Field (HIRF) Environment”.

特記事項:
本事例の航空機の形状はEVEKTOR(spol. s r.o.)および欧州HIRF SEプロジェクトのHIRF SEコンソーシアムの提供を受けました。本事例の電磁界シミュレーションは、欧州研究会議の枠組み(Seventh Framework Programme(FP7/2007-2013)のHIRF SEプロジェクト(No 205294)の一環として行われました。

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