抵抗スポット溶接ガン(RSWG)の3D電磁界モデルを作成してシミュレーションを実行し、等価回路パラメータを抽出した事例です。この種のガンではパラメータを確定するのが容易ではありません。トランスや電子コンバータであれば電気特性は既知であるか、未知であっても標準的な手順で測定できますが、ガンのパラメータは知られておらず測定も困難です。3次元電磁界シミュレーションを使用してこれらのパラメータを確定し、システムの特性を知ることができます。CST EM STUDIO(CST EMS)の定常電流ソルバーと準静磁界ソルバーを使用しました。
本事例の内容はA. Canova、B. Vusini両氏(Dipartimento di Ingegneria Elettrica-Politecnico di Torino)とG. Grusso氏(Dipartimento di Elettronica e Informazione-Politecnico di Milano)のご厚意により掲載します[1]。
溶接ガンは、ターミナル、アーム、電極からなる構造をSAT形式でインポートし、CST EMSモデルとしました(図1)。このモデルを基にシミュレーションを行います。
溶接ガンの特性は交流式(AC)か中波直流式(MFDC)かで異なります。
交流式の給電は通常、50 Hzの単相電圧です。図2上は、サイリスタと降圧トランスを用いた交流式システムです。サイリスタで電流のデューティ比を変化させ、出力パワーをコントロールします。
図2下に示す中波直流式では、一次電流を三相インバータで制御、二次電流をダイオードブリッジで整流します。
先に述べたように、トランスや電気コンバータの場合は、電気特性は既知であるか、未知であっても標準的な手順で測定が可能です。しかし、ガンの場合はそうではありません。交流式と中波直流式のどちらの場合も、溶接ガンの出力電力と給電入力の比である電力効率が重要となります。この値は通常20?30%です。電力損失は、トランスやダイオード、抵抗スポット溶接(RSW)などのパーツの抵抗成分によるものが大きく、中波直流式ではこれにインバータ損失が加わります。なお、交流式の場合は、インダクタンス成分は力率の減少を招き、皮相電力の増加と電流の増加、つまり抵抗損失の増加をもたらします。システム全体の効率を改善するには、まず各パーツの抵抗損失を推定するために解析を行う必要があります。本資料ではRSWパーツ(トランス、アーム、電極への接続部)の抵抗成分の評価に絞って説明します。トランス、インバータ、ダイオードブリッジといった市販部品については標準的な手順で抵抗を測定できるのに対し、RSWパーツの抵抗はあまり一般的に知られていません。予備推定によると、ガン部分の電力損失はRSW出力電力の50%にもおよびます。
RSWの各パーツの電気抵抗とインダクタンスを求めるために、3次元定常電流シミュレーションを行いました。実動作時と同じ電流を給電し解析を行います。電気的パラメータが特定されれば、ガンの性能解析が可能となります。さらに3次元低周波ソルバーにより周辺への磁界の分布を、また熱ソルバーにより熱特性の解析を行うことができます。
中波直流式モデリングにより溶接ガンの電気パラメータを推定するには、ガンの各パーツについてそれぞれ定常電流シミュレーションを行い、解を得る必要があります。定常電流シミュレーションでは電流を注入する2つの端子を定義する必要があります。ガンの各パーツは導電率の大きい材質として考慮し、端子については無限の導電率(完全導体)とします。
湾曲部のシミュレーション例を図3に示します。シミュレーションはパーツを組み合わせて、たとえば構造の上半分、下半分、あるいは全体について行うこともできます。シミュレーションではパーツの接合部を理想的(接触抵抗が無視可能)としましたが、電流分布は接合部分の実際の形状を反映した結果を表します。
2つの電極をショートさせた場合の電位分布を図4に示します。このシミュレーションから得られる電気的パラメータは、各パーツのパラメータ値の合計になるはずです。各パーツの抵抗値とそれらを合計した値を図5に示します。
交流式給電による溶接ガンの抵抗とインダクタンスは、準静磁界ソルバーで計算することができます。ここでは溶接ガン全体について計算を行いましたが、前述の要領でパーツごとの解析も可能です。準静磁界ソルバーの計算では、給電周波数と電流振幅の選択が可能です。溶接ガンの磁気特性は線形とみなされ、したがって電気的パラメータは給電周波数のみに依存します。非常に低い周波数(1 Hz など)でシミュレーションを行うことによって、定常電流シミュレーションの結果を検証することができます。
渦電流(対数スケール)と磁界分布(断面表示)を図6に示します。ガンの周辺に磁界が発生していることを示しています。
準静磁界シミュレーションで得た値を図7に示します。1Hzにおける抵抗は、先の定常電流シミュレーションの結果とほぼ一致する値が得られています。50Hzの結果は、大きな渦電流効果の発生と抵抗値の増加を示します。
直流式による抵抗を図8に示します。フレキシブル接合部の抵抗値をシミュレーション結果と測定結果(A, B)について示します。
次に交流式のインピーダンスを求めました。なお、インピーダンスが非常に低いため実部と虚部を求めることができず、有効電力と無効電力に分けることはできません。20Hzと300Hzにおけるインピーダンスを図9に示します。
CST EM STUDIOの応用例として、スポット溶接ガンの等価回路パラメータ計算を行った事例をご紹介しました。等価回路により、システム効率を知ることができます。CST EM STUDIOで作成したシミュレーションモデルは、設定を少し変えるだけで、定常電流ソルバーと低周波(準静磁界)ソルバーのどちらでも解くことができます。
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