3次元電磁界解析を電力工学分野に応用した事例として、ABB(ABB Distribution, Skien, ノルウェー)[1]の中電圧向けSF6ガス絶縁リングメインユニット負荷開閉器のシミュレーションをご紹介します。
本事例のCADモデル画像は、ABB社(ABB, Bad Dättwil, スイス)のご厚意により掲載します。
負荷開閉器は、負荷状態の電気回路に流れる電流を遮断するための装置です。この装置について電磁界シミュレーションを行い、放電が起きるおそれのある箇所を特定します。この情報は、たとえば固定部品と回転部品の間隔を最適化する場合に役立ちます。
放電箇所の特定を目的とする本事例の場合、形状を簡略化するのは適さず、したがってCADデータのインポート機能が重要になります。インポートしたいファイル形式に対応していることはもちろん、インポートに問題が生じたパーツに対し自動修復が行われることも大切です。
Pro/EngineerからCST EM STUDIO(CST EMS)に直接インポートし、自動修復機能を適用した開閉器モデルを図1に示します。本事例ではすべての部品が正確に配置されているアセンブリファイルをインポートしました。
シミュレーションに必要な設定として、インポートしたモデルに材質と励起源と境界条件を定義します。静磁界シミュレーションでは、材質として完全導体(PEC)または誘電体が定義できます。
電流遮断される瞬間の電位(本事例では中相に19.6kV、外側に-9.8kV)を各導体に設定し、領域全体の電位分布を計算した結果を図2に示します。電位分布に基づき、各部品の材質が金属か誘電体かの判別が可能となります。
シミュレーションの精度は、ソルバー次数とメッシュに大きく左右されます。メッシュは形状を可能な限り忠実に表現していなくてはなりません。ここでは四面体メッシュを選択した上に、丸みを帯びた形状をメッシュで近似表現する設定を行います。つまり、曲面形状のメッシュ細分化機能(curvature refinement)を構造全体のメッシュに対し適用し、丸みを帯びた部分のメッシュの質がどこも同じになるようにします。さらに異方性のメッシュ細分化機能(anisotropic curvature refinement)も併せて適用し、円筒面のメッシュが外周方向だけ細分化されるようにします。
上記機能を用いて生成したメッシュを図3に示します。
上記のメッシュ設定は優れたメッシュを生成するばかりでなく、メッシュ自動適応機能を適用した結果も改善する働きがあります。
シミュレーションから得られた電界分布を、メッシュ表示の上に重ねたプロットを図4に示します。
シミュレーションでは電気力線の算出も重要です。電気力線により放電電圧や放電電流の経路の予測が可能となります[2]。
電気力線を計算するためには力線の起点を指定する必要があるのですが、CST EM STUDIO(CST EMS)では構造の表面を選択することで簡単に指定できます。ひとつのブレードの表面を選択した例を図5に示します。
マウスで任意の場所をポイントすることにより電界強度がインタラクティブに得られます。データをテキスト形式で出力し、外部ツールで放電現象を評価することも可能です。
CST EM STUDIOによる静電界解析例として負荷開閉器のシミュレーションをご紹介しました。CST EM STUDIOには、電界値やキャパシタンスマトリクスを抽出するポスト処理機能や、パラメトリック計算と最適化モジュールも内蔵されています。
[1]SF6 gas insulated RMU SafeRing 24 kV(pdf)
[2] A. Blaszczyk, H. Boehme, A. Pedersen, M. Piemontesi: Simulation based spark-over prediction in the medium voltage range, ISH Bangalore 2001
[3] http://scee2012.ethz.ch/abstracts_new/SCEE12_Abstract_67_talk_Sterz.pdf
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