電磁界と熱の結合解析に向けたパワーチョークのモデリング

パワーチョークは、EMC問題を低減する目的でインバータと共に使用されるチョークコイルです(図1のソーラーインバータ参照)。通常はインバータ1相につき1個のパワーチョークを使用します。チョークに流れる電流は数A程度ですが、電磁損失により生じた熱がインバータの性能や信頼性を損なう可能性があります。インバータに部品が稠密に搭載されると、それだけ熱管理が重要になります。

パワーチョークのワインディングに生じる電気損失をCST EM STUDIO(CST EMS)で計算し、さらにその損失を熱源とする温度分布をCST MPHYSICS STUDIO(CST MPS)の熱ソルバーで計算した事例をご紹介します。

図1: ソーラーインバータのプロトタイプ
図1: ソーラーインバータのプロトタイプ

パワーチョークのバーチャルプロトタイプ(形状モデル)と同じものをソーラーインバータに組み込んだ写真を図2に示します。チョークの寸法は約56 x 54 x 83 (mm)、コアは層状強磁性体、ワインディングは銅です。

図2:バーチャルプロトタイプ(a) と物理モデル[1] (b)
図2:バーチャルプロトタイプ(a) と物理モデル[1] (b)

パワーチョークの温度分布解析は、下記のワークフローに沿って行います:

磁性体の磁気損失とワインディングの導体損失の計算

図3に示したのは、18.8 kHzにおいて有効入力電流2.21Aを流した場合のパワーチョークの電気損失密度をシミュレーションした結果のプロットです。シミュレーションでは四面体メッシュを使用し、CST EMSの準静磁界ソルバーで計算を行いました。

計算の結果、電機損失の合計は11.95Wとなりました。この値は、測定値の11.19W [1]とほぼ一致しています。これにスタインメッツの式を用いることにより、磁気損失は11.78W と推定されます[1, 2]。

図3:電気損失密度分布
図3:電気損失密度分布

熱問題の解析

CST MPSの定常熱ソルバー(stationary thermalソルバー)を使用し、上記の電磁損失を熱源とする熱問題を解きます。パワーチョークと周囲のアンビエントな熱の相互作用も考慮したいので、チョーク表面に放射率εと熱伝達率h(対流)を定義します。自然対流では h = 5 W/m2/K が通常の値です。

図4:パワーチョークの温度分布 シミュレーション結果(a)と測定結果[1](b)
図4:パワーチョークの温度分布 シミュレーション結果(a)と測定結果[1](b)

図4は、シミュレーションにより得られた温度分布を測定結果と比較したものです。流体熱力学に基づく専門の解析ツールではなくても、測定結果と十分に一致する結果が得られています。

特記事項:
上記解析事例は、ドイツ連邦教育研究省から資金提供を受けたSOlarプロジェクト(No. 16N10843)の一環として行われました。

参考文献

[1] Courtesy of Fraunhofer IZM.

[2] Steinmetz, C., “Note on the law of hysteresis,” Electrician, no. 26, 1891, pp. 261-262.

会社名
株式会社エーイーティー
所在地
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