電磁界シミュレーションによるトランス等価回路の導出

電磁部品の解析において過渡電磁界のフルシミュレーションに代えて等価回路を使用する方法は、突入電流のような現象が観測される場合は特に効率のよいアプローチです。たとえば50Hzトランスの解析では通常、時間定数は数分のオーダーであるため、過渡電磁界のフルシミュレーションでは計算に長時間を要しますが、回路レベルのシミュレーションはその数分の1の時間で済みます。また回路シミュレーションではパラメトリックな解析が可能で、what-ifシナリオのテストを行い、たとえば突入特性におけるシステムインピーダンスの影響などを調べることができます。

以下ではCST EM STUDIO(CST EMS)の静磁界ソルバーと共にSAM機能を使用して、2つの標準的なトランスのテストから50Hz過渡電磁界の等価パラメータを抽出する事例をご紹介します。抽出した回路をCST DESIGN STUDIO(CST DS)でテストし、結果をCST EMSトランジェント(過渡界)ソルバーの計算結果と比較します。

<p>図1: トランスの等価回路を抽出するSAMワークフロー</p>

図1: トランスの等価回路を抽出するSAMワークフロー

SAMは、特定の応用に向けたワークフローを整備するユーザー支援機能です。目的の効果を持つ等価回路を何種類かの回路トポロジから選択することができます。トポロジの選択後、シミュレーションタスクを定義します。図1は漏洩インダクタンスと磁化インダクタンスからなる等価回路の代表例を示します。2つのインダクタンスはCST EMS静磁界ソルバーの2つのシミュレーション(バックテストと開回路テスト)から導出します。これらのシミュレーション、およびすべての回路シミュレーションタスクは、同じCST STUDIO SUITEのマスタープロジェクトをベースとし、マスタープロジェクトに加えた変更はシミュレーションタスクに継承されます。この仕組みによりSAM機能ではパラメータスイープや最適化が容易になります。

<p>図2: 開回路テストによる漏洩磁束特性</p>

図2: 開回路テストによる漏洩磁束特性

上述のように、シミュレーションタスクはマスタープロジェクトの設定の一部を継承しますが、行うタスクの種類によりシミュレーションの設定が異なります。開回路テストの結果を図2に示します。ワークフローの最初のシミュレーションであるこのテストでは、二次電流をゼロに固定し、一次電流をゼロからユーザーが定義した最大レベルまで変化させます。最大レベルの値は等価回路の影響を受けます。突入電流シミュレーションでは、電流が定格電流の10倍まで上昇する可能性があります。開回路テストの結果はCST DSに送られ、非線形磁化特性は回路図上のSPICEモデルブロックで表現されます。図2に示す磁束鎖交は、スチール材質の磁心が示す非線形特性を表します。SPICEモデルの書き出しでは、この磁束鎖交がインダクタンスに変換されます。CST EMSのポスト処理機能ではこれ以外にも、インダクタンス行列やエネルギー/コエネルギーなどのデータを扱うことができます。CST EMS低周波トランジェントソルバーでも等価回路モデルのテストが可能です。同ソルバーは開回路と共に短絡回路のシミュレーションも行います。

<p>図3: バックテストシミュレーションによる漏洩インダクタンスの抽出</p>

図3: バックテストシミュレーションによる漏洩インダクタンスの抽出

次のシミュレーションタスクであるバックテストの設定と結果を図3に示します。バックテストは、短絡回路テストよりも正確に漏洩インダクタンスを導出する技術と認識されています。バックテストではコイルのアンペア回数は等しいかまたは正負逆となります。この基準を達成するように電流を調整すると、一次インダクタンスと漏洩インダクタンスの正確な比率を求めることができます。これは短絡回路テストではできないことです。シミュレーションの観点では、短絡回路テストの磁化電流は近似的にゼロでしかありませんが、バックテストでは確実にゼロにできます。バックテストは測定では実現が難しいため、これが可能であることはシミュレーションの利点のひとつです[1]。

<p>図4: CST DSによる突入シミュレーション</p>

図4: CST DSによる突入シミュレーション

静磁界タスクの実行後、抽出されたパラメータは自動的に回路シミュレータに送られ、回路シミュレーションが開始します。磁界と回路レベル、いずれのシミュレーションについてもパラメータ化が可能です。磁心空隙、あるいは形状や材質の影響を調べることができます。同じ等価回路で表現した2つのトランスによる共鳴突入シミュレーションの例を図4に示します。トランジェントシミュレーションタスクに50Hz正弦波による励起を設定、さらに回路システムのインピーダンスをインダクタンスと抵抗で定義します。この例では磁化電流に目的を絞り、縮小した等価回路を用います。トランスはそれぞれ20msと40ms後にONになります。このスイッチON時の突入電流を図4下に示します。この電流波形から、時間定数が非常に長く、したがって(冒頭に述べたように)電磁界のフルシミュレーションでは計算に極めて長い時間を要することが分かります。等価回路を使用すればはるかに効率が良く、回路トポロジを変える場合もあらためて電磁界シミュレーションを行う必要がありません。

まとめ

SAMによるトランスのモデリングと突入電流の解析をご紹介しました。SAMは特定の応用に向けたワークフローの整備を支援します。他のシミュレーションについても同様の手法を使用して、たとえば高周波領域の寄生容量成分を、静電界シミュレーションの結果として回路に取り込むことができます。等価回路は任意のトポロジとすることができるため、ワークフローのカスタマイズは必須であり、その意味でもSAMは有用性の高い機能です。

参考文献

[1] D.A. Lowther, P.P. Silvester, "Computer-Aided Design in Magnetics", Springer-Verlag Berlin and Heidelberg GmbH Co.KG, 1985, ISBN-13: 978-3642706738

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