レーダーは距離の計測にも用いられます。静止物や移動物に向かって電磁波を放射し、伝送と反射の時間差から距離を計ります。この仕組みを利用した産業用貯蔵タンクのレーダー解析事例を紹介します。
タンクレベル検査レーダー(TLPR:Tank Level Proving Radar)は、産業用タンクの貯蔵レベルの計測に広く用いられているもので、精度が良く、信頼性の高いデータが得られます。設計では、タンクのフランジの大きさが限られるため、アンテナのサイズが課題となります。また、図1に示すように、タンク内部のさまざまな部品が障害とならないように、ビームを集中させることも要件となります。
ビームを集中させるには、ビーム幅が狭く、サイドローブレベルが低く、メインビーム方向の利得が高い特性を持つアンテナが必要です。利得は、図2(a)にしたがって、アンテナ実効面積について計算することができます。フランジの直径を80mmとすると、アンテナ実効面積は図2(b)により求められます。開口効率は、アンテナ実効面積の実面積に対する比率(図2(c))で表されるパラメータです。開口効率はアンテナの大きさに比してどれほど集中した性能が得られるかを示す重要な指標です。
指向性アンテナとして広く使用されているのはホーンアンテナです。しかしホーンアンテナの場合、適切な効率で動作させるために寸法と波長の比率を調整すると、大抵はフランジに収まりきれない大きさになります。したがって小型の誘電体レンズアンテナを開発します。このアンテナの誘電体レンズは楕円形状をしており、その表面波によって利得が増幅します。給電は、誘電半空間の境界において、円形導波管により行います(図3左)。さらに、入力インピーダンスを広帯域で整合するために、ステップ型インピーダンス変換器をアンテナに挿入します。
CST MW STUDIOのモデリング機能でアンテナモデルを作成し、時間領域ソルバーでシミュレーションと最適化を行いました。六面体メッシュとPBA技術を使用することにより、曲面を持った構造についても精度の高い結果を求めることができます。
時間領域ソルバーが計算した誘電体レンズアンテナの広帯域特性と反射損失、入力整合の過渡特性を図5に示します。誘電体レンズ内部の電磁界が-40dBで多重反射を示し、入力インピーダンスの整合が良好であることが分かります。
図6は誘電体レンズアンテナの過渡近傍界を動画で示したものです。有効周波数範囲において表面波と結合した伝搬波が、より高い利得を示す様子を表しています。表面に達した電磁波の一部が反射していますが、この反射波はポートに吸収されるか、またはレンズ内部の誘電損失に吸収されます。
遠方界の計算結果を図7に示します。サイドローブレベルは-15dBと低く、またメインビーム方向の利得は25dBiと高い値が示されています。開口効率は104%ほどで、実効開口面積がフランジの寸法よりも大きくなっています。この結果から、この誘電体レンズアンテナがタンクの貯蔵レベルを高精度で計測できることが示されました。
産業用タンクの貯蔵レベルの計測に向けた、誘電体レンズアンテナのシミュレーション例をご紹介しました。優れた開口効率を達成することにより、鋭い指向性を示すアンテナを設計することができます。この後は、設計したアンテナを製作し、力学的あるいは化学的な堅牢度の検証へと進むことになるでしょう。
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