WiFi干渉問題:マグネトロンと電子レンジの解析

マグネトロンは、廉価でエネルギー変換効率に優れた(75%以下)マイクロ波源として広く使われています。第二次世界大戦時にレーダ技術として開発されたマグネトロンは、その後、製造過程の自動化が進むと共に大量生産され、今日では電子レンジに応用されて一般家庭で使用されています。

電子レンジの動作周波数はWi-FiやBluetoothなどの通信システムと同じ帯域(2.45GHz前後)に属し、従って、漏洩するマイクロ波はシステムを干渉する放射ノイズとなります(図1)。マグネトロン由来のノイズが潜在的に大きな脅威となり得るため、製造者や開発者はこのEMI問題に対処するべく、ヒーター電力の低減や磁極片の形状修正、不均一な磁界の使用により解決を図ろうとしています。本事例では、マグネトロンの周波数をシフトする(図1)ソリューションをご紹介します。

図1:マイクロ波の割り当て
図1:マイクロ波の割り当て

電子レンジ用マグネトロンの構造を図2に示します。構造には、カソードフィラメントと共振空洞、出力アンテナが含まれます。共振空洞には一対のセラミックリング永久磁石を付帯させ、電子ビームがらせん軌道を描くようにします。

図2:調理用マグネトロンの構造
図2:調理用マグネトロンの構造

CST PARTICLE STUDIOによる相互作用の解析

CST PARTICLE STUDIO(CST PS)では、電子レンジ用マグネトロンの効率と周波数を計算することができます。詳しくは、ビーム負荷効果を考慮して、電子レンジ用マグネトロンのマイクロ波出力電力と周波数を予測します。

図3は、CST PSのPICソルバーで計算した電子の時間発展を、相互作用空間のxy面で示します。10個のベーンがある共振器において、モードに従い、カソードの周りに5本のスポークが生成されます。ここでのモードは動作モードです。

図3:マグネトロン相互作用領域のビーム分布
図3:マグネトロン相互作用領域のビーム分布

共振器のモード電磁界と電子ビームの間の相互作用領域において発生したマイクロ波電圧を図4に示します。電圧は、相互作用空間の最上部で取得しました。この結果から、マグネトロンの動作周波数(2.481 GHz)と出力電力(980 W:アノード電流値から算出)が予測できます。CST MW STUDIO(CST MWS:電磁界解析のみのシミュレーション)とCST PS(電子の運動解析を含むシミュレーション)の違い(39 MHz)は、ビーム負荷効果に因るものです。マイクロ波電力は、アノードに接続したアンテナから取り出します。予想電力980 Wは、設計値1000 Wにほぼ合致した値です。

図4:相互作用領域の電圧信号(左)とそのスペクトル(右)
図4:相互作用領域の電圧信号(左)とそのスペクトル(右)

CST EM STUDIOによる静電磁界解析

1対のセラミック製永久磁石を導入し、カソードの周りで粒子を回転運動させます。図5は、その静磁界分布と、軸から2mm離れた位置の(軸に沿う)磁束密度分布を示したものです。カソードから放出された電子は、磁束密度により進行方向に垂直な力を受けます。シミュレーションによる磁束密度の最大値は、設計値0.19 Teslaと一致しました。

図5:静磁界分布(左)と磁束密度分布(右)
図5:静磁界分布(左)と磁束密度分布(右)

さらに、電極電位による静電ポテンシャル分布を図6に示します。この静電界によって粒子はアノードに向かい加速します。また、静電界と静磁界により荷電粒子のドリフト速度が定義されます。ドリフト速度は動作モードに同期させる必要があります。

図6:静電ポテンシャル分布
図6:静電ポテンシャル分布

CST MPHYSICS STUDIOによる温度解析と応力解析

マグネトロンの効率は100%ではないため、冷却が非常に重要になります。事実、エネルギーの30?50%が熱になります。最も弱い部分はセラミック製の磁石で、キュリー温度を超えると磁性が失われます。図7は、効率42%の温度分布を示したものです。熱伝達率から、冷却気流1.0m3/minを考慮します。また、熱膨張による変形解析の結果も表示しています。

図7:マグネトロンの温度分布(左)とそれによる変形(右)
図7:マグネトロンの温度分布(左)とそれによる変形(右)

マイクロ波の考察

図8に、電子レンジ用マグネトロンの共振モードを示します。隣り合うベーン間の電界位相シフトは180°です。電子レンジは食品を均一に加熱するのを目的とするので、その意図で庫内の電界を解析しました。また、扉の隙間からの漏洩を最小限にとどめる必要があります。CST MWSのシミュレーションによる遠方界プロットと電界分布を図9に示します。CST MWSでは、ベントやスロット、シーム、パネルなどの標準的な形状についてコンパクトモデルが用意されており、モデルの作成が容易に行えるとともにシミュレーション計算の負荷を下げることができます。

図8:共振モードの電界
図8:共振モードの電界
図9:電子レンジの遠方界(左)と電界分布
図9:電子レンジの遠方界(左)と電界分布

測定値との比較

シミュレーションが測定を再現できれば、コストを相当に削減できるでしょう。また、シミュレーションが正確であり、短時間で結果が出せれば、製品を市場に出すまでの期間を効率良く短縮できます。CST STUDIO SUITEの計算結果は、測定値によく合います(図10)。ヨーク温度の違いは、ヨークとヒートシンクの接合部が測定とシミュレーションで異なることによるものです。

図10:測定値とシミュレーション結果の比較
図10:測定値とシミュレーション結果の比較
図11:ヨークとヒートシンクの接合部
図11:ヨークとヒートシンクの接合部

まとめ

本事例では、電子レンジ用マグネトロンの周波数を2.45GHzから2.48GHzにシフトすることによるEMI問題への対処を提案し、マルチフィジックス解析環境でのシミュレーション事例を示しました。CST STUDIO SUITEでは電子レンジに関連した各種ソルバー技術(磁石と電極設計のための静電磁界ソルバー、共振解析のためのトランジェントソルバーと固有モードソルバー、荷電粒子運動解析のためのPICソルバー、ヒートシンクのための熱ソルバーと応力ソルバー)をひとつのGUIで使用できます。さらにGPUやMPI機能により計算の高速化を図ることができます。

会社名
株式会社エーイーティー
所在地
〒215-0033
神奈川県川崎市麻生区栗木2丁目7番6号
TEL:044-980-0505(代表)
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