デュアルモードフィルタの温度分布を解析した事例です。損失のある金属材質のキャビティ内部についてシミュレーションを行い、そこから得られる電流密度分布を熱源として熱シミュレーションを行います。
事例のデュアルモードフィルタは薄い壁で隔てられた2つのキャビティからなり、壁には結合スロットがあります。チューニングスタブで2つの直交モードを調整できます。また、45度傾斜したスタブで結合帯域幅の調整も可能です。キャビティの外側にはラジエータを搭載しています。金属壁には有限の厚さがあり、導電率が有限値であることから表面電流が生じます。
熱解析を行う前に、フィルタの通過帯域を調整する必要があります。この調整はチューニングスタブの長さを変えることで行います:群遅延応答メソッドを使用し、スタブごとに調整します。図2に調整後の相対帯域幅1%のSパラメータを示します。反射係数の下部(中心周波数から約0.5%乖離)に電流密度モニタを定義しました。
電流分布は周波数によって大きく異なるため、電流密度モニタを設置する周波数には注意が必要です。通過帯域の低い側には、中心周波数から99.5%乖離した周波数に電流密度モニタを設定します。 この周波数における電流密度分布を図3に示します。 なお電流密度の振幅は、ピーク電力1W および/または 0.5W rmsにスケーリングされます。 実際のRF伝送電力が5kWであることから、係数1e4を乗じることで適切な熱源の振幅が得られます。
次に、モデルの熱プロパティの定義が必要です。 熱源には高周波シミュレーションの結果を利用します。 筐体(真鍮)、放熱エレメント(銅)、チューニングスタブ(アルミニウム)にはそれぞれ熱伝導率を割り当てます。 この事例では、スロットのある壁はインバー合金とみなし、熱伝導率を13 W/(Km)と銅の30分の1という低い値にしています。CST MPHYSICS STUDIOでは熱導電体材質に熱表面プロパティを割り当てることができます。筐体の外壁では伝熱係数を5 W/(m^2K) とすることで伝達を考慮します。この事例では内部隔壁の熱伝導率が低いため、大半の熱は空気対流によって運ばれます。結合スロット近傍の空気は熱せられ、次第に上昇して対流渦を形成します。この対流効果を、隔壁にもう1つの伝熱係数 15 W/(m^2K)を割り当てることによって近似的に考慮します。モデル全体は熱伝導率の低い空気にエンベッドし、また熱境界については底面に 273 Kの定温を、上面には不定温を、さらに4つの垂直面には断熱(熱の横断無し)を割り当てています。
熱のコンタープロットを図4、5、6に示します。
熱流密度は熱ソルバーのポスト処理で求めることができます。ユーザー定義断面におけるコンタープロットとアロープロットを図7と8にそれぞれ示します。
対流のメカニズムは媒質の伝達と関係します。その効果を考慮するには流体力学(CFD)の数値解析プログラムが必要です。上述のように、隔壁で生じた熱が原因で、空気は対流渦となって回り始めます。デュアルモードフィルタ内部の空気速度分布を図9に示します[1](Spinner GmbH社(独 Feldkirchen-Westerham)のご好意と許諾により記載)。
CST MW STUDIOとCST MPHYSICS STUDIOを使用してフィルタの熱解析を行いました。ソルバーの連携解析により隔壁の近傍の温点などの温度計算が可能となります。実際に、CFDコードのFluentによる結果(405 K)とほぼ一致する計算結果(およそ420 K)が得られました。
Dr.Spaeth, Dr. Lorenz : "CFD- Simulations at Spinner", Spinner Spotlight 4/2005, Page 4-6
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