THz世代に向けた遅波構造は、研究開発が進行中の”熱い”分野です。Minghao Zhang他の論文[1]にはTHz領域で動作する後進波発振器(BWO)用の’quasi-parallel-plate’(準平行プレート)遅波構造設計が提示されています。連続波(CW)のBWOは、周波数に同調可能でコンパクトなTHz放射源です。上記の遅波構造は放射源の性能を決定する重要な部品です。
折返型導波管(FWG)に手を加えて、周回ビームへの適応と動力操作と高周波などの利点を活かしながら動作特性を改善した遅波構造を図1に示します。この構造を”quasi parallel plate”(QPP)と呼びます。中心部は一般的なFWGと同じく直角に曲がったE-plane構造です。金属の側壁は真空(vacuum)に置き換え、平行プレートに似た特性を持たせます。その結果、周波数帯域幅が拡張します。一般的なBWOと比較してQPP BWOは相互作用インピーダンスと効率が高く、動作電圧と収束磁場が低く、回路長が短くなります。微細加工技術で作成できることも有利な点です。
CST STUDIO SUITEの固有モードソルバーを使用して、ビームと波の相互作用インピーダンスや分散カーブなどの構造の周波数特性を計算します。10 kVビームラインと分散カーブは動作周波数の1THzにおいて一致します。このビームラインを5 kV-10 kVの間で変化させることにより、動作周波数範囲をおよそ0.8 THz-1 THzの間に同調させることができます。軸上の相互作用インピーダンスは5 ohmを上回ります。
次に、材質を銅として伝送特性を計算しました。計算にはトランジェントソルバーを使用し、Sパラメータを求めました。その結果、設計帯域幅のなかでS11は20 dB未満、S21は2 dB以上となり(図2b)、THz領域での伝送に適した構造であることが示されました。
遅波構造に沿って伝搬する基本モードの電界分布を図3に示します。図から、この基本モードがTE10モードに類似していることが分かります。この分布特性は、電界が構造の中心部に集中することを示唆します。
電子ビームと電磁波との間の非線形相互作用を含めた、完全動作が可能な機器としてのシミュレーションは、CST PARTICLE STUDIO(CST PS)の3D Pic(Particle-In-Cell)ソルバーで行うことができます。BWOは磁気的焦点合わせした電子ビームを使用します。電子ビームの速度は、特定周波数における後進波の位相速度とほぼ等速に調整され、その結果電子ビームと電磁波の相互作用が生じ、電子ビームがバンチ化します。この過程でビームから抽出されたエネルギーが電磁界に移転します。ビームが遅波構造を進むに従って電子はエネルギーを失います。エネルギーを電磁波電力として出力することにより、機器は増幅器として働きます。図4に電子ビームのバンチ(a)とバンチから生成された電界(b)を示します。
生成した電磁波は出力ポートから出力されます。ピーク電力は0.97 Wに達します。生成された信号に比較して反射信号は23 dBほど低くなります。この値は、設計の初期段階で得られるSパラメータに一致しています。ビーム電圧を10 kVに設定した場合の結果を図5に示します。
THz領域に向けた新しい遅波構造の初期設計と検証に電磁界シミュレーションを使用した事例をご紹介しました。CST STUDIO SUITEの固有モードとトランジェントソルバーを使用して相互作用インピーダンスとSパラメータを計算し、構造特性を明らかにしました。初期設計を完了した時点でParticle-in-cell(Pic)ソルバーを使用してBWO全体のシミュレーションを実行し、設計を検証しています。その結果、本事例では周波数0.82 THz – 1 THzの範囲でピーク電力 0.82 Wの出力を観測しました。
[1] Minghao Zhang; Yanyu Wei; XianbaoShi; Lingna Yue; Wanghe Wei; Jin Xu; Guoqing Zhao; Minzhi Huang; ZhanliangWang; Yubin Gong; Wenxiang Wang; Dazhi Li, "A Modified Slow-Wave Structurefor Backward-Wave Oscillator Design in THz Band," Terahertz Scienceand Technology, IEEE Transactions on , vol.4, no.6, pp.741,748, Nov. 2014
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