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PETRA III トロイドの熱負荷

ドイツ電子シンクロトロン(DESY:Deutsche Elektronen Synchrotron)は、高エネルギー加速器の開発と建設、および運転に携わる世界有数の研究所です。加速器から発せられるフォトンは、物質構造の研究に用いられます。PETRA III円形加速器はストレージリングをベースとするX線放射源です。極めて輝度の高いX線を発生します。

トロイドはビーム電荷を測る目的で使用される加速器部品です。トロイドは基本的に一種のトランスです。トロイド内部のビームは、二次巻線に電流を誘起する一次回路と考えることができます。図1に示すのはそのような非破壊ビーム電流モニターのモデルで、ビーム管、セラミック、ベロー、コア、ホルダーで構成されています。引き延ばしたチューブでベローをシールドし、チューブとベロー間の領域と、チューブ領域の間をスプリングで区切っています。

本事例はDESY(Hamburg. Germany)のご厚意により掲載します。

図1:トロイドの構造

上記トロイドモデルについて、CST PARTICLE STUDIO(CST PS)とCST MPHYSICS STUDIO(CST MPS)の熱ソルバーを使用して温度環境を調べます。まず、CST PSのウェイクフィールドソルバー(WAK)でビームのエネルギー損失をシミュレーションし、トロイド内部で誘起される熱負荷を計算します。それをもとに、部品が達する最高温度を定常熱ソルバーでシミュレーションします。

トロイドの誘起電力は、下式にしたがって計算されます:

Pmax = Imax Qkloss = Imax 2 tkloss / Nmin (1)

ここでImax = 100mA はビーム電流、t = 7.685μsは加速器の回転時間、Nmin = 40 は加速器内部のバンチ数、Qとkはそれぞれビーム電荷とウェイク損失係数を表します。

WAKソルバーのシミュレーションは、真空とセラミック、およびコア周囲の空気だけを考慮します。荷電ビームのバンチ長は13.2mm、電荷は1nCです。WAKソルバーで使用したモデルの断面を図2に示します。青とオレンジで示したのがビームパスとウェイクフィールドの積分パスです。ビームは超相対論的であると仮定しているので、間接法の積分により結果を改善する余地があります。

図2:ウェイクフィールドシミュレーションモデル

所定の精度の結果が得られるように、メッシュの収束スタディを行いました。特にべローとスプリング周りのメッシュを十分細かくし、構造特性が捕えられるようにします(図3参照)。損失係数はkloss = 7.9 V/nCに収束し(図4参照)、その結果、(1)の式より、損失電力はPmax = 15.17 Wと計算されます。

図3:収束スタディ後の最終的なメッシュ
図4:損失係数の収束 vs. メッシュ適応

熱シミュレーションの準備として、構造の両側に20cm長のチューブを付加し、チューブの両端に温度境界を設定します(20°の定温)。横軸方向には冷却作用を設定せず、したがって空冷の無いセットアップとなります。定常熱ソルバーの解析には材料の熱伝導率を設定する必要がありますが、これは材質ライブラリから読み込むことができます。表面には放射特性を設定します(図5参照)。チューブを長くすると冷却が考慮されるこの設定は、モニターにおける現実の冷却プロセスを表します。

図5:温度境界条件(左)と放射表面(右:放射率0.015 - 0.28)

誘起される電力は、セラミックと、セラミックに近い側のチューブの内面にわたり均一に分布します。このシミュレーションは先験的に設定したものですが、その結果、構造の固有モードの影響が見られないことから、セットアップは有効であるといえます。Imax = 100mAと40バンチ(15.17W)で温度はTmax = 79.2°Cに達します(図6参照)。20°Cの定温からは59.2°Cの上昇であるこの結果は、測定結果(シミュレーションとは僅かに異なるモデルによる)とよく一致しています。

図6:表面の温度分布

(1)の式から予測される温度の二次的な特性は、ビーム電流のパラメータスイープにより確かめることができます。熱解析でビームを100mA、40バンチに設定したのは、それにより誘起電力が最大になると推測されたためです。最高温度の80°Cとなっても、トロイドの特性が影響を受けることは無いと考えられます。

図7:温度 vs. ビーム電流

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