トルクの最適化: トラクション用永久磁石同期電動機(PMSM)

自動車や輸送システムのトラクションに使用される永久磁石同期電動機(PMSM)(8極200Hz)について、平均トルクを最大化すると共にトルクリップルを最小化することを目的としたシミュレーションと最適化の事例をご紹介します。上記の相反する目的をCST EM STUDIOの解析機能により達成します。電動機の解析モデルと主な特長を図1に示します。電気機械は、通常は2Dで解析して効率良く正確に計算を行うことができますが、ここでは2Dと3Dを切り替えられるように3Dでコアモデルを作成します。そうしておくことで、2Dソルバーと3Dソルバーを必要に応じて選択して使用できます。2Dと3Dのシミュレーションの間に、形状や材質やその他のモデルパラメータの違いはありません。以下では3Dでモデルを作成し、断面を指定して2Dトランジェントソルバーでシミュレーションを行います。なお、本事例では電動機のトルクの最適化を目的として、永久磁石の導電率をゼロに設定します。永久磁石が回転子に埋め込まれているため、渦電流を考慮しても結果精度はそれほど変わらず、かえってシミュレーション時間が長引くおそれがあります。

図1: 汎用PMSMモデルの構成
図1: 汎用PMSMモデルの構成

ソルバーの設定では、回転ギャップ(rotation gap)を定義し、これに等速運動を設定します。運動方程式を適用することも可能です。回転ギャップの定義を通じて、時間ステップによるトランジェントシミュレーションにmoving mesh技術を導入することができます。時間ステップごとにメッシュを再作成する方法では、メッシュノイズがコギングトルクの計算に致命的な悪影響をおよぼしますが、moving meshはこのメッシュノイズを事実上排除します。回転ギャップにspeedパラメータを与えることにより、パラメトリックなデータを速度の関数として(逆起電力 vs. 速度など)抽出できます。固定子と回転子の両方にM19の非線形なBH特性を適用します。バリア部は空気でモデリングします。

図2:永久磁石とバリア部の形状と位置定義
図2:永久磁石とバリア部の形状と位置定義

バリア部のパラメータ定義を図2に示します。ポリゴンカーブを形成するポリゴンポイントを、ローカル座標u、vのパラメータで設定します。これらのパラメータを使用して最適化を行います。上記モデルの始点と終点の定義は、隣接する永久磁石の端点にロックされています。図中の距離と角度は、永久磁石のパラメータ設定を表します。

図3:最適化に使用するトルクとトルクリップルの抽出
図3:最適化に使用するトルクとトルクリップルの抽出

図3は、モデルの初期形状による電動機のトルクを時間関数として示したプロットです。平均トルクとリップルの定義も表示しています。これらの信号の値が最適化の目標(ゴール)となります。これより複雑な結果値を定義してゴールとすることもできます。

図4:すべてのゴール値の合計(縦軸)と最適化のステップ数(横軸):Nelder Mead Simplexアルゴリズム
図4:すべてのゴール値の合計(縦軸)と最適化のステップ数(横軸):Nelder Mead Simplexアルゴリズム

CSTの最適化機能は複数のパラメータを同時に最適化することができる多元オプティマイザです。ローカル最適化の手法としてTrust Region FrameworkとNelder Mead Simplexを、グローバル最適化にはCMA Evolutionary Strategy、Generic、Particle Swarmの各アルゴリズムを備えています。どの手法を選択するかは、変数の数、パラメータ空間の大きさ、開始点から最適点までの距離など複数の要因によって異なります。

この例ではNelder Mead Simplexアルゴリズムを選択しました。この手法には、モデルのパラメータ設定に評価不能のものがあっても(計算不可の設定など)最適化を中断せずに続行できる利点があります。平均トルク(ゴール 400Nm)とトルクリップル(ゴール 40Nm)の計算結果がオプティマイザに送られ、ゴール関数が最小となるように最適化が進められます。ゴール値を任意に選択して、たとえばパラメータの拘束条件により最大平均トルクを求められない場合も、オプティマイザがその値を見つけられるようにすることができます。すべてのゴール値の合計を図4に示します。図から、収束した結果であることが確認できます。

図5:定常状態のトルク(縦軸)と時間(横軸):初期モデル(赤)と最適化後(橙)
図5:定常状態のトルク(縦軸)と時間(横軸):初期モデル(赤)と最適化後(橙)
図6:回転子初期モデル(左)と最適化後(右)
図6:回転子初期モデル(左)と最適化後(右)

初期モデルでは、永久磁石を回転子にわざと深く埋め込み、電動機のトルクが低くなるようにしています。図6では、最適化によって平均トルクが大きく向上したことが分かります。トルクリップルの改善は僅かです。このことは、最適化後のモデルでは磁石が回転子の表面に近付くため、磁石と固定子歯の相互作用が大きくなることから予想されます。

図7:時間変動する磁束密度の絶対値表示
図7:時間変動する磁束密度の絶対値表示

モニター機能を使用して、シミュレーションから磁界やその他のデータを抽出することができます。抽出した磁束密度のプロットを図7に示します。このデータをポスト処理して、たとえば点や面上の磁界値を求めることができます。

図8:逆起電力(縦軸)と時間(横軸):位相ごとに色分け表示
図8:逆起電力(縦軸)と時間(横軸):位相ごとに色分け表示

パラメトリックな静磁界解析とは対照的に、トランジェントモーション解析ではインダクタンスと逆起電力の時間変化を各位相について自動計算することができます。

図9:無負荷での逆起電力(縦軸、V)ピーク(緑)とRMS(赤)、速度(横軸、RPM)
図9:無負荷での逆起電力(縦軸、V)ピーク(緑)とRMS(赤)、速度(横軸、RPM)

逆起電力を速度の関数として表したプロットを図9に示します。

まとめ

永久磁石同期電動機の電磁界シミュレーションと最適化について、基本概念と機能を説明しました。磁束バリア部の形状を最適化することにより、浮遊磁束を低減し、平均トルクを増加させることができます。さらに回転子表面の断面を修正するなどの方法により、トルクリップルを低減することが可能でしょう。先進の最適化ツールと共に有限要素法に基づくシミュレーションを活かして、従来の設計の改善や新しいトポロジやコンセプトの開発に役立てることができます。

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