外科療法が困難で手術不能と診断される肝臓がんは症例のほぼ7割にも上ります。RFT(Radio Frequency Thermoablation:RF温熱切除)のようにエネルギーを直接的に用いる療法は、低侵襲療法のなかでも最も成功している方法のひとつです。
RFTはRFエネルギーを腫瘍に正確に当てることを目的とします。RF電極を腫瘍に挿入し、CTまたはMRIのいずれかの超音波をガイドとしてRFエネルギーを腫瘍内に放出します。その結果、患部は加熱され、腫瘍組織と電極チップ周囲の小組織が破壊されます。エネルギーの放出量を慎重に制御し、健康な組織に与える影響を最小限にとどめます。
電磁界シミュレーションを行い、肝臓内部の温度分布を解析します。CSTのFITは、細い金属性放射体と不均一なvoxel人体モデルの間の相互作用を解析する手法として非常に適しています。本事例では、人体の電磁界が肝臓の温度分布に与える影響を時間領域ソルバーと熱ソルバーで計算しました。シミュレーションモデルは、電極、voxel人体モデル、基準(設置)プレートの3点でセットアップしました。
シミュレーションのセットアップを図1に示します(断面)。器官に挿入した電極の位置は図に示す通りです。電極モデルは、Elektorotom Hitt 106(www.integra-ls.com)の寸法を参照し、材質をPECと損失の無いテフロンとして作成しました。比較対照のために2種類の人体モデルを用意しました:ひとつはVisible Human Project® の解剖データに基づくHUGO人体モデル、もうひとつはUAq EMC Laboratory, University of L'Aquila, Italy (http://orlandi.ing.univaq.it/UAq_Laboratory/index.html)が開発した不均一解剖モデル(Uaq ALES)です。
局所的な加熱のシミュレーションであるため、人体モデルの一部のみを使用します。カテーテル(電極)の詳細を図2に示します。中央周波数375MHz、40Wのガウシアンパルスを励起信号として入力します。
HUGOモデル内部の電界を図3にアニメーション表示します(pdfでは静止画)。人体組織の誘電性と導電性により、電界はカテーテル周辺と、接地した皮膚の周辺に集中します。
図4は人体モデル内部の電力損失密度をHUGOモデル(左)とUAqモデル(右)それぞれについて示します。電力損失密度分布自体には、両モデルの差異はほとんどありません。逆に、異種のモデルに共通する部分こそが重要であるため、差異は無視できると考えられます。
熱ソルバーによるシミュレーションでは、誘導電流によって加熱される生体組織の熱計算が可能です。この計算では、血流による冷却効果を生体伝熱方程式で表すことができます。HUGO人体モデルによる肝臓の熱分布を図5に示します(断面図)。
時間領域ソルバーと熱ソルバーを使用したマルチフィジックスシミュレーションにより、RF信号に暴露された腫瘍に生じる局所的な加熱を観測しました。voxelモデルに由来する不均質性を考慮し、必要なメモリ容量が周波数領域ソルバーよりもはるかに少ない時間領域ソルバーでシミュレーションを行いました。2種類の人体モデルでそれぞれ解析を行い、よく一致した結果が得られました。
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