隈取リングセンサの静磁界シミュレーション

ポジションセンサにはさまざまな種類があり、設計はそれぞれのコンセプトに基づいて行われます。この資料では、渦電流センサの設計に静磁界シミュレーションを利用した例を紹介します。シミュレーションを通じてCST EM STUDIO（CST EMS）のソルバー機能とワークフローについて説明します。解析したのは自動車に使用され、列型噴射ポンプの制御棒などの位置を感知する隈取リングセンサです。シンプルなモデルを使用しますが、ワークフローと解析の要点は最先端の設計によるモデルの場合と変わりません。

この種のセンサシミュレーションでは、ヨークリム形状の影響を受ける線形インピーダンスとポジションの相関性が焦点となります。

解析に使用した隈取リングセンサのモデル構造を図1に示します（[1]に基づく）。センサ構造は、E字型積層継鉄（ヨーク）、固定式隈取リングコイル、および誘導アルミリングから構成されます。

上記のモデルはCST EMS内蔵のモデラーで作成したシンプルな形状モデルです。もちろん、これより複雑な形状を作成することもできます。CADデータをインポートして使用することも可能です。

定電流分布を表す巻線コイルモデルで固定コイルを模擬し、10 kHzで励磁します。このため渦電流と近接効果は考慮されません。隈取リングに生じる誘導渦電流に基づいてセンサが動作します。隈取リングは磁心が生成する磁気回路を短絡します。その際、リングの位置によって磁束の短絡の程度が異なり、センサのインダクタンスも変化します。

継鉄の積層は渦電流を抑制します。したがって導電率をゼロとし、透磁率は一定（1500）とみなします。これらを前提とした設定を行い、CST EMS低周波ソルバーで計算を実行します。

センサの部品特性を明らかにする上で、隈取リングに生じる渦電流が非常に重要ですので、リングの表皮深さのモデリングが必要です。このモデリングについて、CST EMS低周波ソルバーには二通りの方法が用意されています。ひとつは表面インピーダンスを近似する方法です。この方法では、表皮深さをメッシュで表現することなく計算の実行が可能となります。もうひとつは自動適応機能または手動適応によりメッシュをリファイン（細かく）して表皮深さを表現する方法です。この方法では、渦電流の可視化が可能となります。対数スケールの電磁界値と渦電流の位相のアニメーション表示を図2に示します。

対数スケールの磁束線を図3に示します。このプロットは、センサの磁束に対する隈取リングの短絡効果を表します。

モデルの実現可能性が確立された後、CST EMSに内蔵したモジュールでパラメトリック解析を行います。変換機能を使用して隈取リングを軸に沿って移動させ、それぞれの位置でシミュレーションを実行します。各シミュレーションについて二次的な数量の自動抽出が可能です。今回の解析ではリング位置の変位にパラメータxを割り当て、変位とインピーダンスの相関を抽出しました（図4）。

CST EMSではこの種のセンサの解析を極めて直接的に実行できます。上記のパラメトリック解析以外にも、内蔵の最適化モジュールを使用してセンサの線形性を最適化することができます。

参考文献

[1] M. Clemens and T. Weiland, "Numerical algorithms for the FDiTD and FDFD simulation of slowly varying electromagnetic electromagnetic fields", INTERNATIONAL JOURNAL OF NUMERICAL MODELLING: ELECTRONIC NETWORKS, DEVICES AND FIELDS, Int. J. Numer. Model. 12, 3-22 (1999)