高効率なリフレクターフィードアレイの解析

「ANALYSIS OF HIGH EFFICIENCY REFLECTOR FEED ARRAY USING A GENERAL-PURPOSE SOFTWARE PACKAGE」[1]に基づいて行われた解析例をご紹介します。アレイ素子の間隔は、動作周波数範囲の上限におけるグレーティングローブ抑制に必要な条件により決定されます。一般には目的の周波数の0.6波長程度とされます。広帯域アレイアンテナの場合、低帯域帯での間隔は1/4波長程度となり、素子の間に強い電磁結合が発生する可能性を示唆します。この結合は素子の整合と放射分布にも著しい影響を及ぼすことが予想され、したがってアレイアンテナの最適化設計では正確なモデリングが必要となります。

大型のフェーズドアレイアンテナの解析では、大部分のアレイ素子に「無限アレイ」近似を適用することができます。また、アレイの周囲にパッシブな「ガード」素子を適用することで、ある程度までエッジ効果の削減が可能です。しかし、パラボラリフレクターアンテナのFPAフィードのような中規模のアンテナにおいては、上記の方法はそれほど有効ではありません。対称条件を適用すれば問題を小さくすることはできますが、それでもアレイ全体の1/4や1/6について完全な電磁界解析を行う必要があります。

次世代の電波望遠鏡と目される、数百単位の双極性素子で構成されるようなFPA(focal-plane array)の解析が視野にありますが、ここではまず、それほど素子数の多くないアレイを考えます。素子数19のFPAについてCST MW STUDIO(CST MWS)でシミュレーションを行い、最適化を図ります。最終的には、ここで用いられたアプローチを上記の広帯域電波望遠鏡FPAの設計に実際に適用するのを目標とします。

素子とするのは双極性の「four-square」ダイポール(「Design of a Broadband Array Using theFoursquare Radiating Element」Buxton,C.G.)です。このダイポールは動作周波数1.4?1.7GHz、13.7mのパラボラをf/D比0.41でフィードします。アレイの励起は、物理光学で計算される焦点フィールドの位相共役とサンプリングとから得られます。

図 1:双極性「four-square」ダイポール素子
図 1:双極性「four-square」ダイポール素子

素子:アレイ素子モデルを作成し、プローブフィード位置の最適化を行います。すべての形状寸法をパラメータで表すことにより最適化と周波数スケーリングが可能となります。素子の励起はマルチピンウェイブガイドポートにより行います(図2)。マルチピンポートにはディファレンシャルまたはコモンのポテンシャルセットを定義できます。また、同軸フィードの固有モード励起の定義も可能です。

図2:素子のフィード設定
図2:素子のフィード設定

CST MWS時間領域ソルバーで計算した反射損失を図3に示します。フィード位置による反射損失の違いが観測されます。この結果に基づき、ダイポール素子の頂角とプローブの間隔を6mmに定めました。

図3:素子の反射損失とフィード位置の関係
図3:素子の反射損失とフィード位置の関係

19素子のアレイ:19個の双極性ダイポール素子からなるアレイの全構造のシミュレーションです。ここでは物理光学的なアプローチにより、素子の振幅と位相を計算します。アレイの遠方界放射分布は、振幅と位相を定義した信号で全38ポートを同時励起する方法で求めました。CST MWSでは2回の計算で1.4GHzと1.7GHzにおける遠方界分布が得られます。同時励起ではなく、各ポートを個別励起する計算も可能です。その場合はポスト処理の過程で任意のポートの振幅と位相を選択し、結果を合成する計算が可能です。多ポート構造の計算では高速化機能が効果的です。この機能はネットワーク上のPCで計算を分散処理し、解を得るまでの時間を短縮します。

アレイの全構造を離散化した結果、およそ500万メッシュノードとなりました。この解析モデルに対し、CST MWSは4層のPML境界を放射境界条件として自動的に付加します。計算過程におけるメモリ使用量のピークは概算で775MBでした。これにはプログラム自体のメモリオーバヘッドと共に、シミュレーションに定義された遠方界モニターも含まれます。3GHz Intel XEONダブルプロセッサ搭載のPCで、全ポートの同時励起の計算に要した時間はおよそ5時間でした。

図4:双極性ダイポール素子×19のアレイ
図4:双極性ダイポール素子×19のアレイ
図5:1.4 GHz の放射分布
図5:1.4 GHz の放射分布
図6:1.7GHzの放射分布
図6:1.7GHzの放射分布

1.4GHzと1.7GHzにおけるアレイの遠方界分布をそれぞれ図5と6に示します。計算には、あらかじめ算出された励起分布を使用しました。同様の励起分布を物理光学的プログラムに入力して、アレイ全体の遠方界分布を求めることができます。その結果を図7に示します。

図7:リフレクターディッシュの遠方界分布
図7:リフレクターディッシュの遠方界分布

まとめ

この事例では、FPAのように電気的サイズの大きな構造の解析にCST MW STUDIOが適していることを示しました。素子数19のシミュレーションにおけるメモリ使用量は1GB未満でした。CST MW STUDIOの時間領域ソルバーにおけるPCのリソースの必要量はメッシュノードの数と線形関係にあります。つまり問題のサイズとリソースの必要量は正比例し、素子数が100を超えるアレイの全体構造もCST MW STUDIOで計算可能です。

参考文献

[1] Frank Demming-Janssen, John S. Kot and Christophe Granet (CSIRO ICT CENTRE), ″Analysis of high efficiency reflector feed array using a general-purpose software package″, Ninth Australian Symposium on Antennas, Sydney 16-17 February 2005

[2] Buxton, C.G., ″Design of a Broadband Array Using the Four square Radiating Element″

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