人体頭部と MRI コイルの電磁界/SAR 計算

バイアス磁場が7テスラを超えるような超高磁場MRIシステムでは、イメージングエリアにおける均一パルス印加磁場や生体に対する低SAR、さらには良好なSN比による高品位画質を実現するためにも、RFコイルの性能が極めて重要です。磁場B0を大きくすることには(分解能とSNRが上昇し、スキャン時間が短縮される等)多くの利点がある反面、そのような高周波においてはNMR装置が一層複雑になり、RFコイルの設計も難しくなります。周波数が高くなると波長は短くなり(500 MHz では真空中の波長 60 cm、頭部内部では 8.5 cm)、人体/頭部あるいはRFコイルの外寸と同程度となります。その結果、人体組織に対するRF場の作用はより強くなり、B1磁場の波動性は、高誘電率かつ高損失性の組織内部において、その均一性に強く影響を及ぼします。B1が不均一なためMR画像は一定の強度分布が得られない一方で、RF電磁場の人体組織は過度の電力集中とそれによって引き起こされる局所熱に曝されることになります。この記事でご紹介するのは、精細な解剖学的人体モデルを使用した解析事例です。このような手法は、電磁界分布と組織内の局所SARの最大値を探る上で、またRFコイルの設計とパフォーマンス評価を行う上で不可欠なものです。

この記事は、CEA Saclay(仏)の研究を要約したものです。Xavier Hanus氏と共同研究者のご厚意と許諾を得て掲載します。

図 1:HUGO 頭部モデルと CST MW STUDIO のセットアップ。青色線は電界評価用
図 1:HUGO 頭部モデルと CST MW STUDIO のセットアップ。青色線は電界評価用

CST MW STUDIOとともに解剖学的人体モデルデータセットHUGOを使用して、人体頭部モデル(7.81kg)をロードしたRFコイルについて電界分布の時間遷移をシミュレーションします。使用したPCはP4 Xeon 2.8 GHz、2G RAM、SCSI HD搭載のDELL 650 です。図1はモデルのセットアップを示したもので、電界を抽出するために定義した線も表示されています。

図2:コイル内に挿入した3次元人体モデル
図2:コイル内に挿入した3次元人体モデル

この事例では計算領域のメッシュセルの総数は 1,982,178 におよびました。その様子を図3 に示します。総数のうちおよそ 1,100,000 は人体組織のメッシュで、平均 3×3×5 mm ほどになります(1 cm3 あたりおよそ 18 voxel)。

図3:4つのポートの位置(a)とポート1領域のメッシュの詳細(b、c)
図3:4つのポートの位置(a)とポート1領域のメッシュの詳細(b、c)

計算領域の境界は PML レイヤを有する open 境界とします。 図 3 に示すように、4 つのディスクリートポートをコイル底部の転回面内 90º ずつに配置し、頭部ロード時に良好な整合が取れるよう、それぞれに可変インピーダンスとコンデンサを並列に接続しています。

図4:頭部をロードしたコイルのSパラメータ
図4:頭部をロードしたコイルのSパラメータ

この高密度メッシュの計算について励起を、直交配置されたポート 1 とポート 3 において、0?800 MHz で行いました。この偏波の結果、モード B1 は図 4 の S31 で表されるように 480 MHz では直交ポート間に渡って伝搬しません。

図5:ポスト処理による結果の統合:<br />	1ポートリニア励起Lin1P1とLin1P3を1Wの円形磁界と統合
図5:ポスト処理による結果の統合:
1ポートリニア励起Lin1P1とLin1P3を1Wの円形磁界と統合

各ポートの励起ごとに特定の周波数における電磁界とパワーロス密度を求めました。図 5 に示すように、ポート1でx軸に沿って励起を行った場合(Lin1P1)、B1モードは-Oy にリニアに沿った磁界ベクトルで表現されます(図3.aおよび5.a)。これらの結果はポスト処理にて、反射量(|S11| および |S33|)を補償する拡張値ならびに円偏波励振をするための位相差(90º)のもと合成されます。ωt 軸のアニメーション表示では、コイルのみの場合は磁気ベクトル場が軸面上できれいな円状となっている(図5.a3)のに対し、頭部内では乱れているのが分かります(図5.b3)。MRI では回転磁場の円成分のみがスピン励起に対し有効で、すなわち画像形成に作用することになります。

図6:x軸とy軸に沿ったH+1の振幅と位相<br />頭部無し(赤、緑)と有り(青、紫)
図6:x軸とy軸に沿ったH+1の振幅と位相
頭部無し(赤、緑)と有り(青、紫)

図6はコイル単体と頭部をロードしたコイルについて、その横軸に沿ったH+1ベクトルの振幅(左)と位相(右)の空間的変化を示したものです。|H+1| は頭部中央で強い集中を示しています:コイル単体ではほぼ 0.95 A?m であるのに対し、ロードしたコイルでは最大 1.2 A?m にもなります(図6.a)。頭部をロードした場合、位相分布は対称ではなく、強い位相シフトが白色(骨)と灰色(脂肪)組織の高?低誘電率境界部位に見られます(図6.bの 150?250 mm 近傍の青色線)。

図7:1g局所SAR:xy面とyz 面
図7:1g局所SAR:xy面とyz 面

SAR と B1断面の数値的検証から、UHF-MRI のコイル設計に重要な情報を得ることができます。1 Watt CW 連続正弦波放出の実効電力で正規化された|B1| および |SAR|値は、与えられた傾斜位相角度における基本増幅率とみなすことができ、ガイドラインに沿った一連の操作による MRI パルスによる SAR を予測計算することができます。コイルのパフォーマンスを向上するにはさらに検証を重ねる必要があります。その検証では、UHF-MRI 特有の波長短縮の中でより均一で円形な回転 B1+を形成するべく、Qの増加(Qloaded = 40)、ポート配置による影響、複数励起の検証等がなされることになります。

参考文献

[1] X. Hanus, M. Luong, F. Lethimonnier, "Electromagnetics Fields and SAR Computations in a Human Head with a Multi-port Driven RF Coil at 11.7 Tesla", Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 13 (2005).

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