シミュレーションを活用した高速マルチピンコネクタの設計フロー

本事例はThomas Gneiting氏(AdMOS GmbH: Frickenhausen、独)のご厚意により掲載します。

適材適所にシミュレーションツールを駆使した高速伝送用コネクタの設計フローをご紹介します。手戻りのない設計フローを目指してシミュレーションツールが導入されたなかでCST MW STUDIOも他のツールと並んで採用され、基本的な設計パラメータの決定や伝送システム全体の特性予測に役立てられました。

本事例の高速マルチピンコネクタの要件は、2枚のドーターカードがバックプレーン経由で接続された通信システムにおいて10Gbit/s以上のデータ転送速度を可能とすることでした。接続は、差動信号線路を使用したポイントツーポイント接続とします。上記以外の技術的な要求仕様は下記の通りです:

  • 差動インピーダンス 100 Ohm
  • SMTインターフェイス
  • 差動信号ペア間のクロストークを最小化するシールディング
  • 差動信号ペアの2接点間の信号スキューを最小化
  • 配線が経済的かつ容易であること
図 1:バックプレーンとドーターカードの構成
図 1:バックプレーンとドーターカードの構成

設計の初期段階に行われる電磁界シミュレーションは、主要な寸法の割り出しやシステム内におけるコネクタ特性の予測に役立ちます。このプロトタイピングプロセスを図2に示します。

図2:設計とプロトタイププロセスのフロー
図2:設計とプロトタイププロセスのフロー

要求仕様を定義した後、導体寸法を決定するための解析を行いました。重要な寸法は、同一層の2つの信号ペアの間隔、コネクタのトレース幅、差動信号ペアの間隔です。伝送システム全体の性能について現実的な予測値を得ることも、設計過程において重要な事柄です。本事例ではさらに、電磁界シミュレーションの結果を(Agilent ADSなどの)回路シミュレータに渡して解析を進めるために、パラメータ化したコネクタモデルのSパラメータをtouchstoneフォーマットでエクスポートすることも行います。

解析を正確なものとするためには、コネクタのみ解析するのではなく、コネクタと基板の接続部、バックプレーン、ドーターカード、および信号パスのビアをも含める必要があります。この方法によってコネクタのみならず伝送システム全体の性能を求めることができます。コネクタのCST MWSモデルを図3に示します。3層のそれぞれに4つずつ信号ペアが配置されています。このモデルを使用して、インピーダンス整合、反射、クロストークとマルチラインクロストークの評価、SPICEモデルの生成、さらにSパラメータに基づくシステム全体の特性評価を行いました。

図3:プロトタイプコネクタのCST MWS 3Dモデル
図3:プロトタイプコネクタのCST MWS 3Dモデル

多額な投資が必要な切削工具やプラスチック筐体部品の製造工程を構築するうえで、CST MWSによる正確な3Dシミュレーションが重要な鍵となります。投資コストの問題以外にも、コネクタの最初のサンプルが要求仕様を満たさない場合に相当の時間をかけて製造工程を変更する必要が生じることを考慮すると、最初のサンプルが得られるタイミングが重要となります。市場投入までの時間は重要な要素ですが、その時間は、設計やプロトタイピングやテストフェーズに費やす時間に大きく左右されます。量産に備えてプレス型と成形型を設計製造するための投資コストは、1種類のコネクタにつき100万ユーロにものぼります。これらのことから、プロトタイピングは設計フローのなかで最も高価な工程であるといえます。

図4:PCBとコネクタ間のインターフェイスのCST MW STUDIOモデル
図4:PCBとコネクタ間のインターフェイスのCST MW STUDIOモデル

上記工程において正確な結果を得るために、信頼性の高いCST MWSのシミュレーションは役立ちます。 図4に示すPCBへのインターフェイスは、コネクタの帯域が制限を受ける要因の1つです。反射とクロストークに着目してインターフェイスの最適化を行いました。

シミュレーションにより得られたコネクタ特性を検証する目的で、試験体(PCB)を設計しました。この試験ボードには特別なディエンベッド構造が含まれています(図5の写真)。図5ではTDR測定器とベクトルネットワークアナライザを使用した測定の結果を赤、シミュレーションの結果を青で示します。ふたつの結果は良好な相関を示し、3Dシミュレーションの正確さとともに、シミュレーションプロセスの効率の良さが確認できます。

図6:アイダイアグラム:測定(上)とシミュレーション(下)
図6:アイダイアグラム:測定(上)とシミュレーション(下)

コネクタと試験ボードを含むシステムに10Gbit/sのNRZ信号を印加した場合のアイダイアグラムを図6に示します。測定とシミュレーションによるアイダイアグラムは良好な相関を示しています。

まとめ

複雑なエレクトロメカニカル部品の設計フローにシミュレーションツールを使用した例をご紹介しました。ツールの使用により、設計時間を劇的に短縮することができます。事例では、コネクタ製造用の成形型とプレス型を大きな手戻り無く作成することができました。本資料では割愛しましたが、ERNI社の設計者はERmet zeroXT コネクタのSPICE/Touchstoneモデルを使用して(最初の製品サンプルを作製する前に)フィージビリティスタディを行いました。

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