微細加工つづら折り導波路を応用した広帯域進行波管

近年、さまざまな分野で微細加工技術の普及が進み、その重要性が増しています。動作周波数が高くなるにつれて必然的に部品を小型化する必要が生じますが、従来の加工技術では小型化した構造の脆弱性が問題になります。本事例はR. Zheng氏とX. Chen氏の提案と解析によるもので、構造に金属を用いることにより脆弱性を改善し、堅牢さを加えています[1]。

図 1:つづら折り導波路の構造
図 1:つづら折り導波路の構造

事例の構造を図1に示します。50回折り返した導波路は遅波構造となります。給電にはCST MW STUDIO(CST MWS)のウェイブガイドポートを使用してRFを入力します。出力側もやはりウェイブガイドポートを定義し、データを記録します。荷電粒子は導波路に対して垂直に進みます(図1矢印)。

図 2:導波路一折の分散ダイアグラム
図 2:導波路一折の分散ダイアグラム

導波路の一折分についてコールドテストシミュレーションをCST MWS固有モードソルバーで行い(遅波シミュレーション事例を参照)、図2に示す分散ダイアグラムを得ました([1]参照)。この周波数範囲における正規化された位相速度は約0.255となり、したがって表面から放出される荷電粒子(図3)のβを若干高めの0.2556とし、電子ビームからRF構造に電力が渡るようにします。放出ビーム電流は50mAです。

図 3:荷電粒子放出表面
図 3:荷電粒子放出表面

入力信号は単一周波数のサイン波で、入力電力は 2.5mW、周波数は230 GHzです。ポートの振幅は波の振幅で、電力の平方根を単位とします。したがって入力信号の振幅(図4赤)は0.05となります。出力信号は480psにおいて振幅0.514で飽和状態に達し、利得20.24dBが得られます。この結果は、Pierceの信号定理によって導かれる利得20.9dBとほぼ一致します([2]p.282)。

出力信号の周波数スペクトルには230GHzにピークがあり、シミュレーション時間が有限であるためにリプルが生じています。

図 4:RF時間信号の入力と出力(左)、出力信号の周波数スペクトラム(右)。
図 4:RF時間信号の入力と出力(左)、出力信号の周波数スペクトラム(右)。

荷電粒子軌道を図5に示します。終端部の拡大図では、明瞭に分かれた低速部と高速部が確認できます。速度変調が生じ、またビームと電磁波の相互作用によってRF入力信号が増幅されていることを示します。

図 5:荷電粒子軌道と終端部の拡大図
図 5:荷電粒子軌道と終端部の拡大図

R. ZhengとX. Chen両氏は周波数範囲全体で信号解析を行い[1]、Pierceの信号定理と比較しました。その結果、Pierceの定理が空間荷電効果と電子バンチから影響を受けることを考慮して、相応の結果が得られました(図6)。

図 6:PIC解析の結果とPierce定理の比較(R.ZhengとX. Chen両氏提供による[1])
図 6:PIC解析の結果とPierce定理の比較(R.ZhengとX. Chen両氏提供による[1])

まとめ

CST MW STUDIOの固有モードソルバーとCST PARTICLE STUDIOのPICソルバーによる遅速構造のシミュレーションをご紹介しました。シミュレーションの結果、理論値と一致した値が得られました。なお、CST MW STUDIOでコールドテストシミュレーションを行った後、荷電粒子シミュレーションに備えてモデルに僅かな変更を加えています。出力電力は、CST MW STUDIOで定義したウェイブガイドポートから直接求めることができます。ポストプロセステンプレートを利用して、信号から利得と周波数スペクトラムが得られます。

参考文献

[1] R. Zheng and X. Chen, "Design and 3-D Simulation of Microfabricated Folded Waveguide for a 220GHz Broadband Travelling-Wave Tube Application", Proceedings of the IVEC 2009, Rome, Italy, April 28-30, pp. 135-136, 2009.

[2] A. S. Gilmour, Jr., "Principles of Travelling Wave Tubes", Artech House, Inc, Norwood, MA, USA, 1994.

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