線形加速器(リニアック)は広く加速器施設に使用される加速器です。軽い粒子の場合、円形加速管ではシンクロトロン放射の影響を受けるため使用上の制約があり、線形加速器が第一選択肢となります。産業応用では1MeV?25MeVまで加速するコンパクトな電子線形加速器が要求されます。CST MW STUDIO(CST MWS)とCST PSを使用して、荷電粒子と加速電界の相互作用と共に加速器構造の高周波特性を調べることができます。
オンアクシス定在波線形加速管のモデル断面を図1に示します。この加速管構造はE010ピルボックス空洞から導出されたもので、回転対称形の加速セルと短い結合セルで構成されます。加速セルでは電子が加速され、結合セルでは高周波電磁界分布が得られます。加速セルと結合セルを合わせた1単位の長さは、相対論的速度vで運動する電子が高周波の半周期間(t=1/(2f))に移動する距離に等しく、このように定義することで加速セル内部の加速電界の極性が粒子運動に同期して反転します。
電磁波工学の観点では、図1の構造は結合した空洞共振器システムとして動作します。N+1個の共振器が結合すると、各共振器の共振周波数はそれぞれ隣の共振器からの位相差Δφ = nπ/ N( n = 0...N )となり、全体ではN+1個の周波数に分かれます。CST MWSの固有モードソルバーを使用して、3つの固有周波数を、隣り合う2つのセルの間のΔφの関数として計算することができます。図2はその計算結果をブリルアンダイアグラムに示したもので、高周波測定によって取得したデータも併せて記載しています。数値解析の結果と測定結果の間に良好な相関が見られます[1]。
加速セルの内部にノーズを設け、縦方向の電界成分がビームの伝搬方向に集中するようにしました。ノーズにおける電界は加速セル中央よりもわずかに高く、粒子が空洞を通過する間に、振幅が時間で増減します。シミュレーションではフィールドモニター機能を使用し、3セルモデル(図1)内部の電場分布をモニターします。さらに、ビードプル法を用いて電場分布の測定を行いました[3]。シミュレーションの結果と測定結果を図3に示します。
共振器と粒子の相互作用を調べるために、上記の3セルモデルを7セルに拡張したモデル(4加速セル+3結合セル)を作成しました。この構造の7つの固有モードのなかの3番目のモードは、隣接するセル間においてΔφ=90°を示すπ / 2-モードです。このモードでは電磁界の節は結合セルにあり、加速セルに最大値が現れます。すなわち、結合セルを通過するときに加速電界の極性が変化するため、同期している粒子は加速電界のみを受けます。
電子ビームも含めた解析を行うために、完全電気導体(PEC)材質の小さい円筒で熱陰極電子銃を模擬し、放出面をビーム伝搬方向に合わせました。電子エネルギーを60keV、放出電流を50mAに設定し、PICソルバーにはあらかじめ計算した電界と磁界を定義しました。電界勾配が20MeV/mほどであるため、ビームは1つめのセルを通過した時点で相対論的速度に達し、したがって集束磁場は特に必要ありません。加速管内部の粒子分布を図5に示します。PICポジションモニター機能により、1.2nsのシミュレーション時間に180枚の画像を保存しました。
図5のシミュレーション結果から、この定常波型線形加速管の特徴について下記の2点を推論することができます:
CST MWSとCST PSを使用して線形加速管内部の空洞と粒子の相互作用と共に電磁界分布を計算しました。C-band加速管の設計に関する考察も行いました。
[1] Design, simulation and measurement conducted by M. Ruf, K. Thurn and L.-P. Schmidt at Chair for High Frequency Technology, University of Erlangen-Nuremberg
[2] Toshiba Electron Tubes & Devices Co.,Ltd. (http://www.toshiba-tetd.co.jp/eng/electron/e_kly.htm, recalled March 9, 2011)
[3] L.C. Maier, J.C. Slater, "Field Strength Measurements in Resonant Cavities", Journal of Applied Physics, Volume 23 (1), Januar 1952
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