飽和コア型限流器の状態空間形式モデリングとシミュレーション

限流器(FCL)は故障電流を抑制するための機器です。飽和コア型FCLは、磁心の磁束密度に伴って変化する透磁率を利用して電流を抑制します。CST EM STUDIO(CST EMS)による飽和コア型FCLのシミュレーションをご紹介します。

図1: 限流器の3Dモデル
図1: 限流器の3Dモデル

FCLは電流を抑制する一方で、従来型のリアクトルとは異なり、標準状態において僅かにインピーダンスを有します。また、標準状態における電力損失の考慮を必要です。飽和型FCLは超電導と非超電導の二種類があります[1]。CST EMSで作成したシンプルな単相FCLモデルを図1に示します。1本のDCバイアスコイルと2本のAC電流コイル、2つの鉄心で構成されるこのFCLモデルの動作原理は下記の通りです:DCバイアスコイルによって2つの鉄心は飽和状態になります。無過失な標準状態ではAC負荷電流が低く、空心インダクタのようにふるまう鉄心(比透磁率1)を非飽和にすることができません。しかし故障状態になるとACコイルに高電流が流れ、透磁率が大きく変化して鉄心が非飽和化します。その結果としてインピーダンスがACコイルの故障電流を抑制します。2つの鉄心は、故障電流の半周期的な正負偏向のどちらも抑制可能とする必要があります。本事例では動作周波数を50Hzとします。

図2: 鉄心の非線形BHカーブ
図2: 鉄心の非線形BHカーブ

鉄心に適用したBHカーブを図2に示します。このモデルでは二通りのアプローチが可能です。ひとつめはトランジェント解析により電圧と電流を求め機器特性を明らかにすると共に、鉄心の透磁率の時間変化を可視化する方法です。積層鉄心を使用するため、渦電流は無視可能とみなします。トランジェントシミュレーションの設定では、ACコイルとDCコイルの両方に信号を定義する必要があります。突入効果の発生を避け、より早く定常状態に到達するために、ACコイルに正弦波電圧を印加します(図3上)。シミュレーションの結果、3秒で定常状態に達しました。DCコイルには定常電流信号を印加しています。ACコイル電流の計算結果を図3下に示します。電流が抑制された様子と非線形な効果を確認できます。

図3: ACコイルのトランジェント低周波解析の結果:電圧(上)と電流(下)の時間変化
図3: ACコイルのトランジェント低周波解析の結果:電圧(上)と電流(下)の時間変化

もうひとつのアプローチは、等価回路を生成し、回路シミュレーションを行う方法です。電磁界シミュレーションは等価回路を生成するために1回のみ実行します。その後の回路シミュレーションは結果が即座に求められるので、解析や最適化を効率良く行うことができます。電力システムのシミュレーションソフトウェアとして知られるEMTP(ElectroMagnetic Transients Program)[2]を使用して複雑な大規模システムを解析する場合は、ジェネレータのような電気回転機械やトランス、リアクタの等価回路が多数必要となります。

図4: 透磁率(鉄心の飽和レベルを示す)
図4: 透磁率(鉄心の飽和レベルを示す)

部品特性のチェックはFCLの電気的応答だけでなく電界分布も使用して行います。透磁率の時間変化を図4に示します(定常状態における)。この透磁率の変化から2つの鉄心の飽和の度合いを読み取ることができます。透磁率の最大は低飽和の状態を示し、逆に透磁率の最小は高飽和状態を示します。

図5: ACコイル電流によるインダクタンスの変化
図5: ACコイル電流によるインダクタンスの変化

CST EMS静磁界ソルバーでAC電流のパラメータスイープを実行し、状態空間モデルを生成します。各電流値に対するシステムのインダクタンスが自動的に算出されます。ACコイルインダクタンスの非線形な変化を図5に示します。この結果をもとに状態空間機能がCST DESIGN STUDIO(CST DS)またはSynopsys® SABER RD用の等価回路モデルを生成します。

図6: Synopsys® SaberRDによるトランジェント回路シミュレーション:
図6: Synopsys® SaberRDによるトランジェント回路シミュレーション:

等価回路は、電磁界ソルバーに統合された回路シミュレーションツールCST DS用、またはSynopsys Saberのような外部の回路/システムシミュレータ用に設定して生成します。Synopsys SaberRDで作成した回路図を図6に示します。上はCST EMSからエクスポートした等価回路ブロックを挿入した故障状態モデル、下はFCLモデル無しの回路です。これら2つの回路についてトランジェント解析を行い、FCLの働きを観測します。

図7: Synopsys® SaberRDによる解析結果:ピーク電流500A(上:FCLあり)と30kA(下:FCL無し)
図7: Synopsys® SaberRDによる解析結果:ピーク電流500A(上:FCLあり)と30kA(下:FCL無し)

ACコイル電流の解析結果にFCLの効果を観測できます(図7)。FCLのある回路(図7上)では故障電流が抑制され、低周波解析(図3)と同じピーク電流500Aを示しています。FCLの無い回路(図7下)ではピーク電流30kAを示します。

まとめ

本事例では磁気部品の等価回路を作成する機能を紹介しました。シンプルな単相FCLの静磁界状態空間解析から得られた結果を、トランジェント解析の結果によって確認しました。これより複雑な、たとえば複数のコイルがあるシステムや多相システムの場合も同様にしてCST EMSの状態空間モデルエクスポート機能で等価回路モデルの抽出が可能です。状態空間モデルを使用して、たとえばトランスの突入電流を電力システムレベルで解析することができます。

参考文献

[1] Moscrop, J.W., "Experimental Analysis of the Magnetic Flux Characteristics of Saturated Core Fault Current Limiters", IEEE Transactions on Magnetics, Vol.49, Issue 2, Feb. 2013.
[2] http://en.wikipedia.org/wiki/Emtp

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