周波数選択性のある表面材(FSS: Frequency Selective Surface)は、その周波数領域における電磁波フィルタとみなすことができます。一般的なFSSは、誘電体基板上に導体素子を周期アレイ状に配置した構造、または導体表面にスロットを周期アレイ状に配置した構造を有します。下記に紹介する入れ子構造の環状スロットFSSは、クイーンズ大学電気通信情報技術研究所(ベルファスト)が欧州宇宙機関のために作製したものです。設計にはCST MW STUDIO(CST MWS)が使用されました。[1, 2]
事例のFSSは動作周波数321GHz、反射損失1dB以下とし、さらに316.5?325.5 GHzと349.5?358.5 GHzの帯域間のアイソレーションが20dB以上となるように設計されました。構造は、環状スロットが周期的に並んだ金属スクリーン(FSSレイヤ)2枚を互いに非常に近接させて配置した構造です。2枚のスクリーンは同一ですが、遮断レベルが一致するように、一方を180度回転させています。CST MWSを使用して、入射角45度のTEとTM平面波について、FSSの寸法と2枚の間隔を最適化しました。FSS素子のSEM画像を図1に示します。
CST MWSのFloquet mode機能を使用して、上記のFSS構造を無限アレイとしてモデル化しました。このモデルについて、四面体メッシュによる周波数領域シミュレーションを行います。離散化は通過帯域で行い、メッシュ適応機能を使用して精度の良い結果が確実に得られるようにします。モデルと最終的なメッシュを図2に示します。構造を最適する準備として、FSSモデルの寸法をパラメータで定義します。
入れ子構造の短絡環状スロットは、TEとTMいずれの偏波入射平面波に対してもフィルタの役割を果たします。その効果を示す321GHzの電界分布を図3に示します。TE偏波(左)では外側のスロットが全波長の共振を、TM偏波(右)では内側のスロットが半波長の共振を示します。
2枚のスクリーンのスロットの向きが同じものと逆向きのもの(鏡面)の2種類のFSSを作製し、測定を行いました。1枚目のFSSは、TE偏波入射波に対し-19dB以上、TM偏波入射波に対し-29dB以上のアイソレーョンを示しました[2]。2枚のスクリーンの位置関係は変えずに片方を180度回転させると、TEアイソレーションは増し、TMアイソレーションは減少しました(図4参照)。ただし、どちらの偏波についても-20dBのアイソレーション基準は満足しています。
図5と6は、FSSの効果をグラフィカルに表します。入射角45度の平面波は、通過帯域の321GHzではFSSを1dB未満の減衰で伝搬します。それに対して遮断帯域の350GHzでは入射波はほとんど反射され、伝搬波も20dB以上の減衰を示します。
モデル、写真ならびに測定結果を提供してくださいましたクイーン大学ECIT(ベルファスト)のRaymond Dickie博士とRobert Cahill博士のご厚意に、CSTは感謝の意を表します。
[1] Dickie, R., Cahill, R. Gamble, H., Fusco, V., Huggard, P., Moyna, B., Oldfield, M., Grant, N. and de Maagt, P., "Polarisation independent bandpass FSS," Electronics Letters, Vol. 43, pp. 1013-1015, 2007.
[2] Dickie, R., Cahill, R. Gamble, H., Fusco, V., Huggard, P., Moyna, B., Oldfield, M., Grant, N. and de Maagt, P., "Polarisation independent submillimetre wave annular slot frequency selective surface," Proc. European Conference on Antennas and Propagation, Nov. 2007.
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