5MeV 電子ビーム用双極子電磁石スペクトロメーター

CANDLEシンクロトロン研究所(アルメニア)が手掛けるAREAL(Advanced Research Electron Accelerator Laboratory)は、レーザー駆動RF電子銃をベースとする電子線形加速器プロジェクトです。超短パルス低エミッタンス電子ビーム生成を目的としたこのプロジェクトの成果は、革新的加速器や新しいコヒーレント光源、原子や分子プロセス工学分野における研究に活かされます。

双極子電磁石は、5 MeV電子ビームのエネルギーおよびエネルギー幅の測定に用いられる、磁界によるスペクトロメーターの構成要素です。スペクトロメーターは、磁界でビーム軌道が示す粒子エネルギー依存性を応用しています。磁界により荷電粒子の運動は円軌道を描きます。この運動の求心力はローレンツ力 F = qvB (qは粒子の電荷、vは粒子の速度、Bは速度方向に垂直な磁束密度)より求められます。この式の左辺を求心力に置換して式(1)を、さらに半径を磁束密度の関数として式(2)を得ます。

<p>図1: 磁束密度による粒子軌道の曲率半径</p>

図1: 磁束密度による粒子軌道の曲率半径

粒子が磁界を横断するとき、速度は(静止質量が同じならば)軌道の半径に比例します。すなわち曲率半径が大きいほど粒子が速いことが分かります。図2に示すように、粒子の軌道を曲げる双極子電磁石の磁界のシミュレーションをCST EM STUDIO(CST EMS)の静磁界ソルバーで行います。静磁界ソルバーは、ヨークの鉄材質がもつ非線形磁化曲線B(H)カーブを考慮して計算を実行します。電磁石を駆動する2つのコイルは電流10A、コイル巻き数500としてCST EMS内蔵のモデルを使用します。粒子を入射する向きを図2に示します。

<p>図2: 双極子電磁石の構造モデル</p>

図2: 双極子電磁石の構造モデル

磁界の断面を図3に示します。左は磁界強度を示し、主にエアギャップ周辺が高くなっています。右は磁束密度で、鉄ヨーク内部に集中しています。

<p>図3: 双極子電磁石の磁界強度(左)と磁束密度(右)</p>

図3: 双極子電磁石の磁界強度(左)と磁束密度(右)

論文[1]の記述に従い、粒子軌道に沿う磁界を調べます。カーブに沿う磁界をポスト処理によって得ることができます。図4はその結果で、2本のカーブに沿う磁束密度をそれぞれ示します。

<p>図4: 磁束密度。x軸方向(上)とy軸方向(下)

図4: 磁束密度。x軸方向(上)とy軸方向(下)

最後にCST PARTICLE STUDIOのTrackingソルバーを使用して、粒子軌道解析を実行します。それぞれエネルギーが異なる5つの粒子を同じ位置から入射します。エネルギーは4?5MeVの間を0.25MeV間隔の値に設定します。

<p>図5: それぞれエネルギーが異なる粒子の軌道</p>

図5: それぞれエネルギーが異なる粒子の軌道

式(2)から予想される通り、高速な(エネルギーの高い)粒子の軌道は、より大きな曲率半径を描きます。粒子モニターを定義し、粒子軌道に沿う磁界を積分することにより、さらに詳細な解析が可能になります。詳しくは [1] を参照してください。シミュレーションの結果は、論文 [2] の測定結果と良好な相関を示します。

参考文献

[1] Andranik Tsakanian, "AREAL Dipole Magnet for 5MeV Electron Beam", CANDLE internal report, Yerevan, Armenia

[2] Andranik Tsakanian, "First Measurements of AREAL Dipole Magnet", AREAL project meeting, October 2013, Yerevan, Armenia /

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