Sバンドクライストロンに関するDESYとDarmstadt技術大学の共同研究の一端として行われたRF抽出回路のシミュレーション事例です。荷電粒子運動と任意の時間依存場を模擬し、CST PARTICLE STUDIO(CST PS)のPIC(Particle in Cell)ソルバーを使用して解きます。PICシミュレーションでは、荷電粒子運動と電磁場の相互結合を考慮することができます。PICソルバーには、ウェイブガイドポート、ディスクリートポート、分散材質や異方性材質などの多くの機能が備わっています。
出力共振器は下図の青色部分を真空として設定しました。上下の面にはウェイブガイドポート(赤色)を定義し、導波管との結合を記録します。灰色の円柱は、荷電粒子の放出体を示します。
粒子源の定義方法はTrackingソルバーと同様です。つまり放出面をピックし、質量、荷電、初期エネルギーなどの粒子プロパティを設定します。放出面のトライアンギュレーションと粒子プロパティを図2に示します。この例では、一連のガウシアンバンチ放出を定義します。
この例の粒子放出以外にも、CST PCではたとえば電子銃シミュレーションから得た粒子分布などの結果をソースとすることができます。
PICシミュレーションでは、任意の長手方向を軸とする円柱対称性依存の均質な静磁界、またはCST EM STUDIOで計算したコイルの重畳が可能です。この事例では均質界を設定し、空間荷電効果によるバンチの発散を補正します(図3参照)。
計算されたバンチの荷電軌道を図4に示します。図ではバンチ内部の荷電エネルギー分布を色別表示します。バンチ電流の振幅は時間軸でガウシアン分布を示します。荷電粒子は放出表面で均一分布となるように定義されています。荷電粒子運動により生じた電界を図5に示します。時間依存電場と粒子モニターデータにおいてもバンチに対する空間荷電効果が示されます。
出力電力(振幅)はウェイブガイドポートにおいて保存されます(図6参照)。開始時はバンチがキャビティをまだ通過していないため、出力はゼロです。その後バンチの数が増加し、クライストロンの設計値に向けて信号が飽和します。
ポスト処理のテンプレートを使用して、時間信号の離散フーリエ変換を設定します。図6に対応する周波数スペクトルを図7に示します。3GHz付近のピークはクライストロンの設計値を示します。
CST PARTICLE STUDIOのPICソルバーによる解析例をご紹介しました。粒子運動と電磁界の相互結合のシミュレーションでは、すべての空間荷電効果を考慮することができます。CST MW STUDIOの解析環境を継承したPICソルバーでは、出力電力や時間依存界などの情報を容易に抽出することができます。
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