650 GHz後進波発信器のシミュレーション

後進波発信器(BWO)は、進行波管と同じくDC電力をRF電力に変換する部品です。動作原理も同様で、DC電力を電気銃に適用して定常電子ビームを発生させ、その電子ビームが遅波構造に作用してRF電力を励起します。後進波(電子ビームとは逆の方向に進行する)は進行波管の中で律速因子となり、この発信器にも用いられます。後進波の強度はビーム電流レベル、遅波構造、焦点調節、および、最終的なRF波を吸収するトランジション領域に依存します。後進波の周波数は、経過時間または粒子速度で決まり、したがって初期適用されるDC電力にも依存します。詳細は[1]を参照してください。

ここで紹介する後進波発信器は、Teraphysics Corporation(USA)のCarol L. Kory、James A. Dayton Jr.両氏が開発、発表したものです[2]。図1左はバイプレーナ・インターディジタル遅波構造をベースとする部品形状を示し、向かい合うフィンガーの間をビームが移動します。

図1右にヘリカル構造の部品を示します。らせんの外側をビームが移動します。

図 1:インターディジタル BWO(左)とヘリカル BWO(右)
図 1:インターディジタル BWO(左)とヘリカル BWO(右)

どちらの部品も650GHzの出力電力を意図して設計されました。ビームの放射面を図2に示します。ビーム電圧は12 kV。電流は、インターディジタルBWOは2mA、ヘリカルBWOは10mAです。

図2:インターディジタル BWO(左)とヘリカル BWO(右)の放射面
図2:インターディジタル BWO(左)とヘリカル BWO(右)の放射面

出力電力の時間信号は、ウェイブガイドポートで記録します。ウェイブガイドポートの配置を図3に示します。

図 3:出力電力を受け取るウェイブガイドポート:インターディジタル BWO(左)とヘリカル BWO(右)
図 3:出力電力を受け取るウェイブガイドポート:インターディジタル BWO(左)とヘリカル BWO(右)

図4左はインターディジタルBWOのウェイブガイドポートで受信した信号(導体損失を含む)です。明らかに定常状態に達していることを示しています。信号は振幅で記録されるため、時間信号を二乗することにより、出力電力を容易に求めることができます。ポストプロセステンプレートを利用して計算した信号スペクトルにより、設計で意図した通り、650GHzに良好なピークが得られています。

図4:ウェイブガイドポートの時間信号(左)とスペクトル
図4:ウェイブガイドポートの時間信号(左)とスペクトル

時間依存のビーム粒子軌道(初期?定常状態)を図5に示します。粒子速度を色で表示しています。ビームと低速波構造の相互作用によってビームに速度変調が生じる様子が示されています。

図5:時間依存の粒子軌道
図5:時間依存の粒子軌道

定常状態到達後の位相空間プロットを図6に示します。ここでも粒子の変調がはっきりと表れています。さらに、平均エネルギーの減少が、粒子からRF波へとエネルギー伝達していることを示しています。

図 6: 5.2nsの位相空間プロット
図 6: 5.2nsの位相空間プロット

上記は、導体損失を含めたインターディジタルBWOの結果でした。無損失のインターディジタルBWO、無損失のヘリカルBWO、および導体損失を含めたヘリカルBWOの時間信号とスペクトラムはよく似ています。ただし、当然ですが、定常状態の振幅は異なります。下表は、従来の解析([2]および[3,4]参照)、MAFIA、CST PARTICLE STUDIO(CST PS)でそれぞれ得られた出力電力の概要を示します。(Teraphysics Corporation, USAの厚意により転載)

図 7:出力電力の理論値とシミュレーション結果
図 7:出力電力の理論値とシミュレーション結果

まとめ

CST PARTICLE STUDIO(CST PS)の計算により、理論値と良好な相関が取れた結果が得られました。CST PSの前身であるMAFIAソフトウェアでも無損失のシミュレーションは原理的に実行可能ですが、損失のあるシミュレーションでは、さらに近似を加味する必要があります。また、場合によっては実行不可能です。CST PSは、同じCST STUDIO SUITEの解析モジュールであるCST MW STUDIO用に開発された、たとえばウェイブガイドポート、損失のある金属のモデル、PBAなどの多くの機能を備えており、本事例のようなシミュレーションを効率良く行うことができます。

参考文献

[1] A. S. Gilmour Jr., "Principles of Travelling Wave Tubes", Artech House, Inc, Norwood, MA, USA, 1994.

[2] C. L. Kory and J. A. Dayton, Jr., "Interaction Simulations of Two 650 GHz BWOs Using MAFIA", Proceedings of the IVEC 2008, Monterey, USA, April 22-24, p. 390-391, 2008.

[3] J. W. Gewartowski, H. A. Watson, "Principles of Electron Tubes", D. Van Nostrand Company, Inc, New York, 1965.

[4] R. Grow, D. Gunderson, "Starting Conditions for Backward Wave Oscillators with Large Loss and Large Space Charge", IEEE Trans. ED, Vol. ED-17, No. 12, 1970.

会社名
株式会社エーイーティー
所在地
〒215-0033
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TEL:044-980-0505(代表)
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