インバーター回路の伝導性ノイズシミュレーションのワークフローを検証するため、AETで基板を試作して実測とシミュレーションの比較を行ってみました。
昨今のハイブリッド車やEV車では、IGBT・MOS・SiC・GaNなどのパワー半導体で高速スイッチングする傾向にあります。そしてパワー半導体によるインバーター回路ではスイッチングノイズの発生は避けられません。EMCの課題として、EMI(伝導性・放射性エミッション)、EMS(伝導性・放射性イミュニティ)に大別されます。今回はCISPR25に準拠した伝導性エミッションの試験法を表現したシミュレーションのワークフローをご紹介するため、自社で実際に回路基板を作成のうえ、実測とシミュレーションの比較検証を行いました。
下記はPower CMOSを使用した3相モーター制御用のインバーター回路です。
伝導性ノイズの発生は、誘導性負荷をドライブする電源回路の寄生素子による要因が支配的と考えます。モーターのドライブ(スイッチング)時に誘導負荷の電源の供給を確保するため、電源回路には複数の大容量のコンデンサが並列に接続されています。また、高周波ノイズをカットするための大きなインダクター(コイル)で構成されている電源フィルターも接続されています。一般的にこれらは、回路図上で、単なるコイルやコンデンサの回路記号と定数のみで扱われ、その内部の寄生コンデンサ回路は表現されていません。伝導性ノイズはその寄生素子が大きな影響を持つために、回路図にはない寄生素子を回路シミュレーションに含める必要性があります。
電源回路素子に回路図にはない寄生素子を回路図に含め回路シミュレーションを行いました。LISNの測定端子でスイッチングノイズを周波数軸でプロットしたところ、伝導性ノイズは電源回路素子の寄生成分が支配的になっていることがわかります。
上記の通り、正確な伝導性ノイズの解析には回路素子の寄生成分を適切に考慮することが重要であることが判りました。 回路図上に現れない寄生成分は回路素子に関する成分だけではありません。 ビアを含めた配線パターンや電源・グランドパターンに由来する寄生成分があります。この影響を考慮するためには配線パターンの等価回路を抽出する必要があります。 さらに、基板と周囲導体(筐体など)との接地状態などの影響も考慮する場合は、3Dの電磁界シミュレーションが必要となります。
シミュレーションと実測の比較を行うため、AETで実証基板を作成しました。 インバーター回路のUVWのスイッチング周期は3.3msで、その周期内で18kHzのPWM変調を行います。モーターが一回転で約10msとなります。今回の検証では基板パターンによるノイズの影響を調べるために以下の表のように2種類のレイアウトを設計しました。
良い設計 | 悪い設計 | |
---|---|---|
電源パターン・ドライブ回路インピーダンス | 低い | 高い |
電源パターン・ドライブ回路パターン配線長 | 短い | 長い |
ドライブ回路 パターン配線バランス | バランス | アンバランス |
製作したインバーター回路に3相モーターを負荷として接続し、CISPR25の伝導性ノイズ試験法に準拠した測定システムを構築しました。 電源とインバーター回路の間に擬似電源回路網(LISN)を接続し、LISNよりスペクトラムアナライザを用いてノイズスペクトラムを取得します。 そのほか、磁界プローブを用いて空間上の磁界スペクトラムを測定しました。
下図は3次元形状でのシミュレーションモデル図を示しています。ドライブ回路から動力ケーブルで接続されているモーターとモーターケーブルは含めていません。基板上でモーター負荷による終端をしています。そして床の金属板をシステムグランドとしています。
今回の実測およびシミュレーションによる評価項目は、インバーター回路基板のレイアウト違いの2種類と、基板を収納する金属ケースと基板のグランドパターンの接続の有無の2つのケースを評価しており、合計で4種類を比較します。
解析条件 | 基板レイアウト | 金属ケースと基板の接地 |
---|---|---|
1 | 良い設計 | 接地なし;“フローティンググランド” |
2 | 良い設計 | 接地あり;“グランド共通” |
3 | 悪い設計 | 接地あり;“グランド共通” |
4 | 悪い設計 | 接地あり;“グランド共通“ |
伝導性ノイズで着目する周波数範囲10kHz〜数MHzを精度良く解析し、3相インバーター回路のスイッチング動作による過渡応答からノイズのスペクトラムを算出するためには、有限要素法による周波数領域ソルバー(F-Solver) と回路解析のAC Combine Taskを連携する手法を用います。 CST Studio Suiteには3次元の電磁界解析機能と回路解析機能が統合されており、密接な連携が可能となっています。
LISNから得られるノイズ電圧のスペクトラムを実測とシミュレーションで比較しました。 「グランド共通」とは基板のグランドパターンがシステムグランドへ電気接続しているもので、「フローティンググランド」とは電気接続がされていない浮いたものとなります。 良い設計例1,2では、グランドのフローティングと共通に関わらず悪い設計例3,4よりもがノイズ振幅が小さくなっています。 これは、配線パターンの伝達インピーダンスが低くなっていることで、400kHz以上のノイズ電流が抑制され、チョークコイル(フィルタ)の効果が得られていると判断できるでしょう。 悪い設計例3,4では、基板グランドと筐体グランドと共通にすると、フローティンググランドと比較してノイズ振幅が全周波数帯域で約5%〜最大25%程度増大しています。 これは配線パターンの伝達インピーダンスが高く、より誘導性が増し400kHz以下の低い周波数帯のノイズが発生し、同時に発生する高い周波数帯(〜2MHz)のノイズが、あたかも低周波(400kHz以下)に変調されているような状態になり、全周波数帯域のノイズ経路が形成されてしまったと結果から推測できます。
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